■犬に“同族”の意識が芽生えた日本人の祖先
では、なぜ日本人は犬に対して特別な感情を抱くようになったのか。言葉を変えれば他の動物よりも犬が高い地位につくようになったのか。
それは我々の祖先と犬がともに命を懸けた旅をして、数々の危険を乗り越えて日本列島までたどり着いたからではないだろうか。
〈日本列島に入ってきたわれらが父祖は、そのうえに犬も連れていたはずである。それは最終氷期の1万6000年前だったし、日本列島に入るルートはシベリア経由だから、現在のアラスカ以上の厳しい冬を乗り越えてきたはずである〉
アラスカと言えば犬ぞりレースがありますよね。雪の中の長距離を、人を、そりで引っ張っていくさまは圧巻のひと言です。
遥か大昔の寒冷期に地球上の生き物たちが食べ物を求めて集まったエイヤワディー川(現ミャンマー)のほとりで出合った人間と犬は、安住の地を求めて長い時間をかけて旅をした。その旅はユーラシア大陸を北上してシベリアへ。さらに間宮海峡を渡ってサハリン経由で北海道、そして本州へ。
ついに我々の祖先は長く厳しい旅路の果てに日本列島にたどり着いた。気の遠くなるようなその長旅の間、ずっと一緒に旅をした仲間に犬もいただろうと本書には書かれています。

氷が割れてその穴に落ちたり、雪が吹き上げられて周りが何一つ見えなくなるホワイトアウトのような非常事態には、犬の存在は欠かせなかったのではないでしょうか。
これは武田説ですが、我々の祖先も犬の群れを率いるリーダー犬に命を委ね、犬たちとともに生命の危険を冒して日本列島にたどり着いた。寒冷地の極寒を一緒にしのぎ、苦しい旅をともにした犬に対して、我々の祖先は“同族”の意識が芽生えた。
「おまえがいたから、この旅ができた」という深い感謝の思い。その感謝の思いが犬の立場を特別なものにしたのではないだろうか。
日本では一緒に暮らす仲間として、犬を大事に守ってきた経緯があります。縄文土器にも弥生土器にも犬が記されているのが何よりの証拠。古から日本人が犬との関係を深々としたものに築きあげていった過去の歴史。その思いが今の日本の愛犬家たちのDNAの中に潜んでいるのではないだろうか。