■神様を守っていた狛犬 村落を守っていた里犬

 アジアの中でも日本という国が犬に関して、独特な感性を持っているのは神社に行けば分かります。

 社の左右にいるのは狛犬。これは「神社にいる神様を守るのは犬である」という象徴なのではないか。本書にも、このように書かれています。

〈日本列島住民の集落には、かならずどこかに森があった。その森に守られ、その森を守る社があった。その社の入り口には、犬の石像が置かれた。石で創られた狛犬は、共同体の続くかぎり共同体の拠点を守る犬を象徴していた。(中略)かけがえのない共生者は、いつかあたりまえの存在になって人々に寄り添って暮らすようになった〉

 犬が守るのは神様だけではありません。本書には明治時代に村で面倒を見ていた〝里犬〟についての記述があります。

〈犬たちは自分の役割が、村落共同体の境界内にあると知っていた。それが里犬だった。里犬は個人が養っているのではなく、村里で養っている犬だった。(中略)この村の子どもたちといっしょに大きくなる犬たちは、神社や薬師堂などの縁の下で生まれ育ち、自分たちをその村の共同体の一員として位置づけて、外国人などの見慣れない侵入者へ警報を発した〉

 見慣れない侵入者の中には村に危害を与える獣も含まれていたでしょう。村を守っていた里犬たち。ところが、今のご時世で里犬のように犬を放し飼いにすることなどできない。それが野生動物を増長させ、害獣被害が増えているんじゃなかろうか。

 街中まで降りてきて害をもたらすクマやイノシシやサル、一山を丸裸にしてしまうシカもいる。専門家いわく、これらの動物に一番有効なのはオオカミだそうです。オオカミさえいれば生態系がうまく回る。

 面白い話ですが、オオカミのニオイがするとシカは交尾しないそうですね。シカって年がら年中ヤッているらしいんですよ、セックスマシーンで。だから、ものすごく増えちゃうんだそう。だけどオオカミのオシッコのニオイがすると性欲を我慢するそうです。妙なところで子供を産んじゃうと、みんなオオカミに食い殺されるという恐怖心があるから。

 だからといって、害獣被害をなくすためにオオカミを野に放てばいいかというと、そうもいかない。

 これは武田の提案ですが、今一度、犬という存在に注目してみてはどうでしょうか。気安く“ペット”なんぞと呼ばずに、もう一度1万5000年前に生まれた友情を結び合い、犬との付き合い方を、もう一度、見直してみたらどうだろうか。

 イヌ派の武田は皆さんに、この言葉をお贈りして、今回の締めとさせていただきます。

「我々日本人が寄り添うべき最高の相方は犬ではなかろうか」と。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。