■ドラマは時代の空気を反映する

 そして、多部未華子(36)主演の火曜ドラマ『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』は、朱野帰子氏のお仕事小説『対岸の家事』(講談社文庫)が原作で、専業主婦・村上詩穂(多部)が、異なる立場や考え方を持つ“対岸にいる人たち”との交流を通して、家事という終わりなき仕事を描く物語。

 全話平均世帯視聴率は6.0%で、今期の民放連ドラ5位。配信サービス・TVerのお気に入り登録は、121.1万(最高値・6月2日)でドラマ部門2位。専業主婦だけでなく、ワーママ、シンママ、育休パパなどの悩みも描き、多くの子育て経験者から、共感と感動の声がSNSに寄せられていた。

 子育てや家事、夫婦のあり方といった、可視化されない問題をリアルに描き出した本作。それは、“あるある”を超えて、視聴者から《見ていてしんどい》という声があがるほどだった。

 しかし、それらの問題も、夫・虎朗(一ノ瀬ワタル/39)、ママ友・礼子(江口のりこ/45)、パパ友・中谷(ディーン・フジオカ/44)が互いに歩み寄ることで、しっかりと落としどころを見つけ、互いを尊重する関係が作られていく。違う立場だからこそ相手を尊重するという、本作もまた、優しさに満ちたドラマだったのだ。

 今期ドラマでは、岸井ゆきの(33)と志尊淳(30)によるダブル主演の『恋は闇』(日本テレビ系)、間宮祥太朗(31)主演の『イグナイト-法の無法者-』(TBS系)が、キャストや斬新な企画で期待されたが苦戦した。どちらも、事件を解決していきながら、人々の恨みや欲望、悪意を描いている。

 ドラマは、その時代の空気を反映すると言われている。政治情勢など、なにかと不安定な時代で、人間の闇の部分を描く作品より、ヒットした3作の春ドラマのような、優しさを描く作品が視聴者に求められているのだろう。

 刺激が強く話題にのぼりやすいドラマがヒットしてきたこれまでと比べると、これは新しい傾向のように思える。7月からは新しいドラマが続々と始まるが、今度はどんな作品が支持されるのだろうか。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。