武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。

 今回、題材とさせていただく一冊は『鬼の筆』(春日太一著・文藝春秋)。サブタイトルに「戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折」とありますように、本書には橋本忍という日本の映画史に燦然と輝く脚本家の数奇な人生が書かれております。

 ここで皆さんに橋本忍という脚本家について紹介しておきますと、彼が脚本家として携わった映画には、黒澤明監督の名声を“世界のクロサワ”へと一躍高めた『羅生門』『生きる』『七人の侍』。テレビドラマ化もされて話題を呼んだ『私は貝になりたい』。松本清張原作の『ゼロの焦点』『砂の器』。高倉健主演で大ヒットした『八甲田山』、横溝正史原作の『八つ墓村』などなど、日本映画史に残る名作ばかり。

 皆さんもご覧になったかもしれませんが、ずらりと並んだ映画のタイトルだけを見ても、橋本忍という人がまさしく「戦後最大の脚本家」だということがお分かりになると思います。橋本忍という名前を初めて聞く人も「あの名作は、こんなふうにしてできたのか」と、ヒット映画の裏側を一緒に覗き見ていきましょう。