■今も毎朝欠かさず四股を踏みます!

 ちなみに、私にとって、水と塩のありがたみを感じるのは、相撲です。

 皆さんもよくご存じのように、相撲の取り組み前に、力士が塩をまきますよね。あれは、土俵を清めるための所作なんです。

 昔の相撲は、神様に豊作を祈る神事でした。土俵は神聖な場所とされ、そこに上がる前に、邪気を祓うための塩をまくようになったというわけです。

 また、ひしゃくで水をくんで、口をすすぐ‟力水(ちからみず)”は、力士の身を清めるためです。いずれも、神聖な土俵を汚さないようにという心配りなんですね。

 相撲ならではの所作でいうと、四股も大切です。四股を踏むという動作には、‟醜(しこ)を踏む”、つまり、地中の邪気を踏み鎮めるという意味が含まれています。今でも地鎮祭などで横綱が土俵入りを奉納するのは、そのためです。

 土俵の上でグッと腰を落として片足を高く上げて、ゆっくりと大地に下ろす。力士がそれを繰り返すことで、土俵だけでなく大地全体を鎮める。そんな願いが込められているんです。

 私は、今も毎朝、欠かさず四股を踏んでいます。鍛練でもありますし、心を整えるためでもあります。

 祈りの形はいろいろありますが、今回のように、日本とイスラエルの共通点に目を向けると、改めて祈りの奥深さを感じますよね。

貴乃花光司(たかのはな・こうじ)
1972年8月12日、東京都生まれ。88年、藤島部屋に入門。92年の初場所で、史上最年少の19歳5か月で幕内初優勝。兄・若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年11月に第65代横綱に昇進。幕内優勝22回。生涯戦歴は794勝で、「平成の大横綱」と呼ばれた。2018年に日本相撲協会を退職し、現在はテレビ、講演会等、幅広く活躍中。