■“断崖絶壁の対決”は彼のオリジナルだった
このことがよく表れている映画が、清張作品を映画化した『ゼロの焦点』。
主人公の禎子には見合い結婚した新婚の夫(憲一)がいる。広告代理店に勤める憲一は新婚早々、出張で金沢(石川県)に出かける。しかし予定を過ぎても帰京しない。そんな中、禎子のもとへ、「憲一が北陸で行方不明になった」という勤務先からの知らせが入る。急遽、金沢へ向かい憲一を探す禎子。その過程で、夫の知り合いが金沢で次々と姿を消していることを知る。そして夫の隠された過去が暴かれる――というサスペンスもの。
能登半島西海岸を舞台に繰り広げられる物語のクライマックスは、主人公と犯人が直接相まみえる対決シーン。主人公・禎子は犯人を断崖絶壁(撮影場所は能登金剛・ヤセの断崖)に呼び出し、直接対決を迫る。
実は、この場面は原作にはない橋本が考え出したオリジナルの設定なんです。サスペンスものでおなじみの“犯人対主人公の断崖絶壁での対決”というのは、ここから始まる。今や定番となった“断崖絶壁の対決”を生み出したのも彼だったんですね。
むろん、断崖絶壁の対決に至るまでの話もまた面白い。これも“以下、ネタバレ注意”ですが、武田節で紹介しましょう。
“犯人”の佐知子は金沢で大きな会社を経営する社長の夫人。この佐知子には悲しい過去があった。
結婚する前に東京にいた佐知子は、立川の米軍基地で米兵相手に“エミー”という名前で売春婦をしていた。東京を離れた佐知子は、その過去を隠して社長夫人に収まった。しかし、そのことを知った、当時を知る男たちが彼女のもとを訪ねてくる。「おまえ、あのエミーだな」。過去を知られては困る佐知子は、次々と男たちを殺していく。この佐知子には立川売春婦時代の仲間の“サリー”がいた。彼女が、禎子が探す行方不明の夫の元恋人(内縁の妻)だった――。
原作では、佐知子の過去を知るサリーこと久子は“口封じ”のため、佐知子に吊り橋から突き落とされて、あっけなく殺されてしまうんです。
ところが、”橋本脚本”では簡単には久子を殺さない。