武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。

 日本映画史に名を刻む鬼才、橋本忍という脚本家の栄光と挫折を描いた『鬼の筆』(春日太一著・文藝春秋)を題材にお話ししてまいりましたが、今回が最終章。

 日本映画史に燦然と輝く傑作、高倉健主演『八甲田山』を私と健さんのエピソードもふんだんに交えながら、武田節全開でお送りしましょう!

 まずは、ご覧になっていない方のために簡単なあらすじを。

 1902年1月、迫りくる日露戦争に向けての軍事訓練として、陸軍弘前第八師団は八甲田山での雪中行軍を行っていた。神田大尉(北大路欣也)率いる青森歩兵第五連隊210名と、徳島大尉(高倉健)率いる弘前歩兵第三十一連隊27名は、雪の八甲田で“すれ違う(顔を合わせる)”と約束し、山へ向かう。しかし神田隊は大雪と猛吹雪の中で道を見失い遭難。隊員210名のうち199名が死亡するという壮絶な結末を迎える――。

 史実に基づく、史上最悪とも言える山岳遭難事故の大惨事を描いた新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』を映画化した『八甲田山』は、公開された1977年の日本映画配収1位を記録する大ヒットとなりました。

 雪中行軍で行き場を失った神田大尉が吹雪の中で絶望に打ちひしがれて叫ぶ、「天は我々を見放した!」は、今も記憶に残る名場面です。

 すさまじい冬山でのロケ、数か月にわたって命懸けの撮影が続いたそうです。橋本脚本のポイントは2つの部隊を率いる神田大尉と徳島大尉の友情物語に脚色したこと。これが感動を呼ぶんだなぁ。