■文化力によって日本を導いた!
ちなみに、聖徳太子の飛鳥時代には、秦氏とは別の、“蘇我氏”という渡来系の一族が登場します。歴史の教科書で、その名前を覚えたという人も多いのではないでしょうか。ボローニャ大学客員教授で美術史家の故・田中英道先生によれば、この蘇我氏も、なんと「ユダヤ人だった可能性がある」そうです。異なる時代に、異なるグループが日本を訪れていたわけです。
ユダヤ人説の真偽はさておき、古代の日本が多様な民族や文化を受け入れていたことは確かです。
今年は戦後80年という、節目の年です。日本や欧米では自国民ファーストが叫ばれていますが、私は今一度、その姿勢を見直すべきだと思っています。大切なのは文化の力です。島国に住む日本人は、舶来物に敏感で、海外のものを巧みに取り入れて自国の文化に昇華してきました。まさに、秦氏を受け入れた、応神天皇や聖徳太子のように。
きっと彼らは、“文化力”によって日本を、よりよい国に導こうとしていたはずです。その精神こそ、現在の日本、ひいては現在の世界に必要な視点だと、私は思うのです。
貴乃花光司(たかのはな・こうじ)
1972年8月12日、東京都生まれ。88年、藤島部屋に入門。92年の初場所で、史上最年少の19歳5か月で幕内初優勝。兄・若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年11月に第65代横綱に昇進。幕内優勝22回。生涯戦歴は794勝で、「平成の大横綱」と呼ばれた。2018年に日本相撲協会を退職し、現在はテレビ、講演会等、幅広く活躍中。