■鹿島・香取神宮が国の守護神として篤く信仰された理由とは

 そんな国譲り神話で、交渉の使者として地上に派遣されたのが、武神の、武甕槌命と経津主命です。

 2人は出雲の国へと降り立ち、武甕槌命が、伊耶佐の小浜(島根県の稲佐浜)に剣の柄を下にして突き立てて、上を向いた剣先に乗るようにして座り、国譲りの交渉に臨みました。

 その、ただならぬ気迫と威光に圧倒された大国主命は、自ら国を譲ったと伝えられています。

 このことから、鹿島・香取神宮は、国の守護神として篤く信仰され、さらには、武道の神様、勝負の神様としても広く親しまれるようになりました。

 国技であり勝負事でもある相撲にとっては、まさに敬うべき存在というわけです。

 私個人としては、伊耶佐の小浜のお話に特別な思いを抱いています。剣を抜かずに、ことを収めた武甕槌命の姿は、かつて、私の父(元大関・貴ノ花=花田満)が語っていた「力士とは武器を持たぬ力人であり、平和の象徴でなければならない」という信念と、まさに重なるからです。

 はるか昔の神話に、力士のあるべき姿を見た気がします。