■抗がん剤治療をやめることはがん医療の現場ではよく起こること

――手術後には、抗がん剤治療を行なわない場合もあるんですか?

「基本的に食道がんに限らず、原則として抗がん剤は術前・術後のどちらか片方だけに使うものなんです。

 たとえば、最近では乳がんは、術前化学療法が増えていますね。それは術前化学療法で手術前にがんを縮めて、乳房を全摘することなく、乳房温存術に留めたいから。

 でも、術前化学療法をやると、普通は術後に化学療法はやらないんです。断言はできませんが、石橋さんの場合、術後にも化学療法をしているというのは、手術で取りきれていないところがあったのかもな、と思います。

 今回のような食道がんの場合、術前の抗がん剤治療というのは“定番メニュー”なんですが、それはおそらく受けたんじゃないかと。それで大手術を終えて、げっそり痩せてしまったと。

 その後、話し合いや、CT、MRI、PETなど検査を重ねて、術後も抗がん剤治療をした方が良いということになってやってみたものの、副作用の強さから脱落したのかも。ただ、これは、がん患者ではよくある話なんです」

――副作用は、具体的にはどのようなものがありますか?

「白血球の減少や、腎機能、肝機能の悪化。倦怠感や嘔吐、脱毛、下痢などが襲ってきますが、すべて個人差があるんです。ケロッとしている人もいれば、強い副作用に苦しむ人もいます。どうしても薬は、100%同じ効果が出るわけではないですからね。石橋さんもそれは覚悟していたでしょうが……。

 もちろん担当医とはよく話し合ったとは思いますが、理屈では“抗がん剤治療を受けた方が良い”と分かっていても、身体が言うことを聞いてくれなくて、もう続けられない、という感じなのではないでしょうか」

――それで治療方針を変えた可能性が考えられると。

「まず、こういった話はがん医療の現場ではしょっちゅう起こることです。医者が“定番メニュー通り”な抗がん剤を用意しても、薬によって副作用は違いますからね。

 とりあえず、この抗がん剤の組み合わせがベストだと思うけれども、副作用が強くて今後受けたくないなら、第2の提案として、別の抗がん剤を勧めるというのは普通にやっていること。そのうえで、やっぱり辛くて、使用を止めるという患者さんもいます。

 ちなみに抗がん剤治療は、内服薬の場合もありますが、基本的に点滴で行ないます。毛が抜けたり白血球が減ったりするのは、細胞障害性抗がん剤ですが、最近は抗がん剤の種類も増えています」