■セカンドオピニオンは「患者として至極まっとうな権利」
――そうなると、石橋さんは今後、抗がん剤治療を行なわずに、治療を受けることになるのでしょうか?
「まだ術後半年ほどですよね。具体的にどのような抗がん剤が使用されたのかは分かりませんが、よく現場であるケースでは、患者さんが“抗がん剤の点滴を受けたけれど、1週間ほど辛くて、寝たきりで大変だから、休憩させてほしい”と言ってくることがあるんです。
規則としては、投与のインターバルは決められているけれど、ドクター側がインターバルを伸ばしたり、投与する量を減らしたり――そういう話し合いは行なわれるものなんです。
それに、いろいろな先生がいますからね。“決められたとおりに!”と押してくる先生もいれば、“そんなに辛いのなら休憩しても良いですよ”という先生もいます」
――間を空けて、また抗がん剤治療を行なう可能性はあるということでしょうか。
「彼はまだ若いし、治療する意思も感じられますからね。おそらく、手術を受けた病院で抗がん剤についても説明を受けて、納得して挑戦してみたけれど脱落したのかも。そこでどのような話し合いが行なわれたかは分かりませんが、患者さんにはセカンドオピニオンの権利がありますからね。
もしかしたら、最初の病院での抗がん剤治療に疑問を感じるなどして、別の病院を訪れたという可能性もありますね。これも、よくある話なんです。医師がセカンドオピニオンを拒否するのは、法律で禁止されていますからね。
石橋さんは多くの情報を持っているでしょうし、紹介状をもらって、別の病院を選んだ可能性もあるでしょう。これは、患者として至極まっとうな権利です」
――それでは、石橋さんが抗がん剤治療を止めたというのは、医療の現場の感覚からするとそう特別なことではないということでしょうか?
「患者さんとしては自然な行動ですし、流石だとも思います。石橋さんの行動を正確には把握していませんが、欧米では少しでも疑問を感じたら、すぐにセカンドオピニオンを受けるし、そういう文化が定着しています。
今後の治療については、おそらく、抗がん剤を完全に使わない、という選択肢はしていないと思います。多くの選択肢がありますからね」
――ただ、抗がん剤治療を止めた場合は、寛解は難しいのでしょうか?
「術後に使われているということは、手術で完全にがんを取り切れていない可能性もありますからね……。
もちろん、病院側は一生懸命にやっていると思います。病状が分からないので類推して語るしかないですが、まだそこまで悪くないけど術後に早めに抗がん剤治療をしている場合もあるし、どちらにせよ、手術後に痩せることも、抗がん剤治療を中止にすることも、何もおかしなところはありません」
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石橋の激ヤセ姿に多くの人は衝撃を受けたようだが、それがイコール、現在、深刻な状況にある、ということではないようだ。そして、抗がん剤治療の中止もがん治療の現場ではよくあることだという。
それでも、食道がんに加えて咽頭がんも併発していたというがんとの闘いは険しいものだろう。しかし、とんねるずファン、そして多数の“貴さん”のワンフー(ファン)は彼の復活を待っている――。
水上治(みずかみ・おさむ)
北海道函館市出身。1973年弘前大学医学部卒業。
東京医科歯科大学医学博士、米国ロマリンダ大学公衆衛生学博士。元東京女子医科大学非常勤講師。都内総合病院内科勤務等を経て、2007年東京千代田区市ヶ谷駅前に「健康増進クリニック」を開業。がんや難病の方々に寄り添う医療を志向。
2010年に『日本一わかりやすいがんの教科書』(PHP出版)、2021年に『がんで死なない最強の方法』(青月社)など、がん関係の本を多く上梓。『世界一受けたい授業』(日本テレビ系)ほかテレビ、新聞、週刊誌など出演多数。