■円本ブームのカラクリは“サブスク”だった

 では、この「円本」はどんな内容の本かというと、世に言う「全集」。改造社は『現代日本文学全集』という文学全集を出した。

円本を日本ではじめて売った、改造社の『現代日本文学全集』―それは当時の日本の作家たちの「これを読んどきゃ間違いない」という作品集だった。

 今でこそ、「○○全集」なんていう全集モノは珍しくありませんが、当時は画期的なアイデア。

 さらに改造社の社長が、ある仕掛けを考えます。

 それが、「全巻一括予約制」。

 37巻ある文学全集を“全巻まとめて購入する人”にしか売らない。「この1冊だけ欲しい」と言っても売ってもらえない。

 しかも完全予約制。出版社からすれば刊行する前から買う人数(売れ部数)が把握できるシステムになっているので、売れ残る心配がないうえに、入金額が分かるという画期的な販売方法。読者には毎月1冊届きます。

 いくら破格の1冊1円だと言っても、文学全集なんて売れるの? そう思いませんか?

 しかし、不思議なことに、これがバカ売れ。当初の予約読者は23万人を超え、“これはいける”と踏んだ改造社は募集を繰り返し、最終的には、なんと40万件~50万件の予約に至ったというからすごい。 それにしても、当時“月給100円”が目安だったサラリーマン家庭が予約してまで買うものだろうか――?

 実は、こんなカラクリがあります。円本は、月々支払う分割払い方式。本書にも《月給制のサラリーマンにとって、単発でそれぞれ料金を払う単行本よりも、逆に給料日とともに「毎月いくら」という形で支払う円本のほうが、財布のひもが緩む。月給制と月額払いは相性がいい》とあります。まさに、今で言うところの“サブスク”ですよね。

 皆さんもそうでしょうが、“毎月いくら”と自動的に口座から落とされると、さほど大きい金額でない限りはそれほど気にならないものです。そういった人間心理というか、サラリーマン心理をうまく突いたのが改造社の大成功の秘訣。イチかバチかの勝負に出た社長は賭けに勝った。

 ところが、これで満足しないのが改造社の商魂たくましいところ。

 大ヒットに気をよくした改造社は、さらなる仕掛けに出た。