■戦争のやるせなさに多くの視聴者が涙

 葬式会場から飛び出した蘭子(河合)は、追って来たのぶ(今田)に、

「どこが立派ながで(なのか)。みんなが立派だと言うたびに。何べんも何べんも言うたびに、うちは悔しくてたまらん」「戦死したら、みんなで立派やと言いましょうって? そんなの嘘っぱちや! みんな嘘っぱちや!」

 と、感情を爆発させて号泣。そして、結婚の約束をしておいて戦死することのどこが立派なんだと悲痛に叫ぶ――というシーンが描かれ、《河合優実劇場だった》《異質な存在感だ》などと、河合の素晴らしい演技も含めて多くの視聴者が注目したのだ。

 その後、蘭子は1967年頃(昭和42年)に、嵩の理解者で元上官の八木信之介(妻夫木聡/44)と出会う。彼に恋をしているような描写もあるが、蘭子が豪が「絶対帰ってくる」と言っていたのに帰ってこなかったことから「絶対」という言葉を使いたくないという話をする場面や、終戦記念日の場面など、豪を想起させる場面があるたび、“泣ける”という視聴者は多い。

「戦争編では、嵩の幼馴染・田川岩男(濱尾ノリタカ/25)の辛すぎる最期が多くの視聴者を泣かせましたが、9月16日放送回でそれがフィーチャーされ、あらためて名場面だと盛り上がりました」(前出のテレビ誌編集者)

 岩男は、戦争で中国・福建省に進軍した際に、駐屯地で嵩と再会。岩男は結婚していて、まだ顔を見たことはないが、息子もいる身の上。それもあり、現地の中国人の少年・リン(渋谷そらじ/7)に懐かれていた。

 ところが、岩男は過去にゲリラ掃討作戦でリンの親を殺していて、実はリンが岩男に近づいていたのは復讐のためだった。岩男はリンに銃で射たれてしまうが、岩男はリンを追おうとする仲間に、“リンは無関係だ”と言い張り、笑みを浮かべて息絶える。という最期が6月19日放送回で描かれた。

 そして、9月16日放送回では、一児の父となった岩男の息子・和明(濱尾・一人二役)が登場。岩男の死に立ち会った嵩と八木から話を聞かされるも、岩男がリンを庇ったことに納得いかず「なぜ父は、その少年をかばい続けたんですか。なぜ父は、殺されなければならなかったんですか」と食い下がる。

 それに対して、嵩は充血した目で当時の光景を思い出し、「それが戦争なんだよ……」と、言葉を振り絞り、和明は何も言えず顔をゆがませるという、あまりにもやるせない場面があった。

《岩男の回を鮮明に思い出して、胸が苦しかった。それが戦争なんだよっていう嵩の一言。本当に戦争さえなかったら。戦争が優しい岩男と可愛いリンを変えてしまった。こんな事あってはいけない》
《涙が止まらんかった…「それが戦争なんだよ」…嵩のこの言葉の重み》

 といった声が、あらためて多く寄せられたのだ。

 千尋(中沢)、東海林(津田)、豪(細田)、岩男、それぞれが生きることの意味を感じさせてくれた彼らの名場面を、視聴者は『あんぱん』終了後も忘れないだろう――。