■『ばけばけ』に期待されること
近年の朝ドラの主演俳優を見ると、『虎に翼』(24年前期)は伊藤沙莉(30)、『ブギウギ』(23年後期)は趣里(35)、『らんまん』(23年前期)は神木隆之介(31)、『舞い上がれ!』(22年後期)は福原遥(27)と、すでに多くのドラマ、映画、CMなどに出演している知名度のある俳優が選ばれることが多かった。
「逆に言えば、高石さんには大きな伸びしろがあるわけですが……。また、時代設定を不安視する意見もあります。『ばけばけ』の主な舞台は明治時代で、寛一郎さん(29)演じるトキ(高石)のお見合い相手・山根銀二郎がマゲを結っているなど、まだ江戸時代の空気が色濃く残っていた明治初期が描かれます。“いつもの朝ドラ”に慣れた視聴者からすると、距離感があり、共感しにくいところもありそうです。
さらに、『ばけばけ』で描かれる“小泉八雲”は、日本の民話を『怪談』という名の文学作品へ昇華し世界へ広めた偉人ではあるのですが、『あんぱん』の“国民的ヒーロー・アンパンマンが生まれるまで”というテーマに比べ、とっつきにくいところもありそうです……」(前出のテレビ誌編集者)
次の朝ドラ『ばけばけ』への不安と期待――芸能評論家の三杉武氏は、こう分析する。
「ひと昔前、NHK朝ドラは若手女優の登竜門のような扱いでした。拘束期間の長さやギャラの安さから、売れっ子を出すのをプロダクションサイドが避けていたとも言われています。ただ、近年では、知名度や好感度が急上昇するということで、プロダクションが人気俳優を売り込んでいるところがありそうです。
それで言えば、高石さんのようなこれからさらに伸びる女優は、久しぶりな感じですよね。朝ドラの醍醐味は、初々しい女優の成長過程を見られるところにもありますから、今回それは楽しみですよね」(三杉氏、以下同)
“のん”こと能年玲奈(31)は、朝ドラ『あまちゃん』(13年度前期)に主演し、一気にブレイクした。古い作品では、『澪つくし』(85年前期)の主演は、前年に芸能界デビューしたばかりの沢口靖子(60)。映画『ゴジラ』(1984年)で、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、さらに朝ドラデビューしたことで、一気に国民的な存在となっている。
「不安要素としては、確かに“小泉八雲”は……有名ではあるのですが、朝ドラは描く人や題材によって、人気に差が出やすいんですよね。アンパンマンが誕生するまでを描いた『あんぱん』や、『ゲゲゲの鬼太郎』の生みの親である水木しげるさんと妻・武良布枝さんを描いた『ゲゲゲの女房』(10年前期)が良い例ですが、著名な漫画家の話は興味を持たれやすいんです。人気漫画やアニメは、皆が知る国民的なものですからね。
逆に、橋本さん主演の『おむすび』は、朝ドラ視聴者にとっては遠い存在である“ギャル”をテーマにしたり、震災とかコロナとか、平成を描くにあたって史実の話を狙いすぎて、結果、裏目に出た感がありました」
時代設定が明治である点については、
「あまり昔の時代過ぎると、大河ドラマと被ってしまうところはありますよね。それで言えば、確かに昭和の辺りが視聴者受けしやすいようです。
いずれにせよ大切なのは、朝ドラの主な視聴層は、主婦など女性層だということ。その層をいかに取り込めるかが成功に関わってくるはずです。ただ、次の朝ドラ『ばけばけ』は、原作がないオリジナル作品ということですから、史実は踏まえつつ、いろいろとアレンジを加えやすいでしょうし、制作サイドもやりやすいのではないでしょうか」
『ばけばけ』のヒロインオーディションは、朝ドラ史上3番目に多い2892人。高石は3度目の挑戦で、朝ドラヒロインの座を勝ち取った。9人が残った最終オーディションでは、審査員が満場一致で高石を選んだという。『あんぱん』の大好評を受けて不安視する声も上がる『ばけばけ』だが、ヒロイン・高石の高いポテンシャルを大いに期待したい――。
三杉武(みすぎ・たけし) 芸能評論家
早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身。豊富な人脈をいかし、芸能評論家として活動している。多くのニュースメディアで芸能を中心にしたニュース解説を行ない、また「AKB48選抜総選挙」では“論客”とて約7年間にわたり総選挙を解説してきた。