■なぜ出版ブームが起きたのか
70年代から言われ始めた「若者の読書離れ」は、80年代では世間的な常識になっていた。ところが若者の読書離れが進む中、突如としてやってきたのが“出版バブル”。
80年代、出版業界の売り上げはピークを迎えることになります。
70年代には1兆円の売り上げだった出版業界が、90年代初頭には2兆円を超える。
本書にはこうありますが、80年代のベストセラーを挙げると、『窓際のトットちゃん』(黒柳徹子著)500万部、『ノルウェイの森』(村上春樹著)上下巻350万部、『TUGUMI』(吉本ばなな著)140万部など。しかも、どれもが1~2年で売れた部数だというからすごい。
不思議なのは、出版界を取り巻く環境はけっして“売れる”環境ではなかったということ。若者の読書離れは相変わらず進み、長時間労働が当たり前の時代で、「24時間戦えますか」がサラリーマンの合言葉。本を読む時間もないほど働いていた状況で、なぜ出版ブームが起きたのか。
その一因は女性の消費行動にあります。
明治以来、男性に傾いていた読者層が、80年代からは女性が、どっとなだれ込んできた。
『サラダ記念日』に代表されるように、女性を読者層にした本がベストセラーになっていく。
女性たちが着々と読書経験を積み重ねていく一方で、余暇を惜しんで24時間働くビジネス戦士たちは「もっと手っ取り早く知識が欲しい」と雑誌に手を出した。
当時、男性に最も読まれた雑誌が1980年に創刊された『BIG tomorrow』(青春出版)。この雑誌は当時、私も出させていただいたことがあります。
本書では、
「BIG tomorrow」は、「職場の処世術」と「女性にモテる術」の2つの軸を中心にハウツーを伝える、若いサラリーマン向け雑誌である。
と紹介されていますが、この雑誌で訴えかけたのはただ一つ。それは「コミュニケーション能力の磨き方」。
人と、どうやってうまく付き合っていくかというコミュ力が、かつての教養と同じように求められる時代になった。学力よりコミュ力が重視される時代が到来した。