■ヒットメーカー・三谷幸喜氏の“得手不得手”が語られて……
『もしがく』の撮影は今春に行なわれたという。三谷氏は遅筆で知られるが、第1話開始の時点で最終回までほとんど書き終えていて、その後に微調整をしたという。
「早撮りには、多忙な売れっ子俳優のスケジュール調整のしやすさなどメリットも多いですが、デメリットもあります。それは視聴者の反応を見て展開を変えられない、というのが1つ。そして、撮影してから放送されるまでが長い分、宣伝での熱量が落ちてしまうところはあるかもしれません。
もちろん、撮影がギリギリになるのが良いというわけではないですが、“今夜放送なのにまだ編集中です!”とか“この生放送が終わったらすぐに現場に向かいます!”みたいな、出演者によるライブ感のある熱い宣伝トークは、早撮りでは不可能ですよね。『もしがく』だと、約半年前の撮影時のことを振り返る感じになりますね」(芸能プロ関係者)
また、『もしがく』のメインプロデューサー・A氏はドラマの完成後、遅くとも第2話(10月8日)が放送されるよりも前の段階でフジテレビを退社していたことが明らかとなっている。
「『もしがく』は早撮りのため、Aさんの退社がドラマに何か影響を及ぼしたということはないでしょうが、Aさんはフジ局内でも有名な敏腕プロデューサーだった。退社後も『もしがく』には携わっているはずですが、やはり向き合い方は変わったところはあるでしょうね」(前同)
さらに、『もしがく』は脚本家の三谷氏の実体験がモチーフの作品だが、三谷氏に関してはこんな見解も。
「三谷さんは間違いなく大ヒットメーカーですが、映像作品においては、2時間前後の映画作品か、1年間じっくりと放送するNHK大河ドラマの評判は良い反面、最近は『もしがく』のような1クール作品は“そうでもない”という評価もありますね。映画作品は尺で言えば、三谷さんの“本業”でもある舞台演劇と近いですし、話数が多い大河ドラマは、群像劇が収束していく三谷さんの作風を存分に生かせる。
しかし、ファンの間でも、三谷さんの脚本は1クールドラマでは群像劇を描くのに話数が足りず、2時間映画と比べると話が間延びしがち、と指摘する声もあり……。『もしがく』も、特に初回には《尺と内容は引き伸ばされた感じ》《朝ドラの尺で観るとちょうど良いのではないか》なんて声もありましたね」(同)
そして、民放キー局ドラマ関係者は「三谷さんに限らず、ヒットメーカーの大御所脚本家によくあるケースですが」と前置きしつつも、こう話す。
「現在のテレビ界には、三谷さんの脚本に“意見”できる人はなかなかいないでしょうね。今回は、“三谷脚本”だからこそ出演を決めた俳優も多いでしょうし、フジテレビとしても三顧の礼を尽くして三谷さんに書いてもらったわけで、制作陣が三谷さんの脚本にダメ出しするのは難しいところがありますよね……」
『もしがく』の内容は視聴者からは、
《時代背景とか演劇界とかをちょっとだけ分かっていれば面白いと思います。そういうことが分かってないと面白さが分からないという意味で、観る人を選ぶドラマなのかもしれません。地上波のあの時間帯では攻めているともいえます》
《三谷幸喜らしい作品なので若い世代には古く感じるのかも知れません。うちの子もそうですがスマホ世代は子供の頃から動画視聴で早い展開に慣れてますからね。。》
《シェークスピアの演劇自体が現代日本では非常に退屈でつまらない内容なので、それを土台にしたドラマが面白くなりようがないのよな。はっきり言ってシェークスピアが面白いと思ってるのは演劇人だけなんだよな》
といった、“前知識がないと面白く感じないのでは”という声も多い。
『もしがく』の不振について、三谷作品を追ってきたドラマライター・ヤマカワ氏はこう分析する。
「あれだけ人気俳優を揃えても見てもらえないのは、小劇場とシェイクスピアを物語の軸にしたせいだと思います。たしかに1980年代に“小劇場ブーム”は起きていたけど、それは約10年間くらいで、その後は特定のファン層に強く支持される、ニッチなエンタメとして存続しました。幅広い層の視聴者を惹きつけるのは難しかったのではないでしょうか。
またやはり、“主要人物多すぎ問題”もあるでしょう。人気も実力もある俳優たちなのでモブ化することができず、それぞれにエピソードを作らないといけないので、全体的に見ると薄味に感じますね」
視聴率、配信ともに冴えない数字になってしまっている『もしがく』。ただ、視聴している人からは絶賛する声は少なくない。折り返し地点から、浮上のきっかけをつかめるだろうか――。
ドラマライター・ヤマカワ
編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。