■むしろ細かい指摘をする方がマナー違反?

 マナー講師直々に“お墨付き”が出た以上、「了解です」を使うのは問題ないと言ってもいいだろう。

 一連の議論の中には、“「了解しました・了解です」が不適切”という風潮を作り出したのは、一部のマナー講師やマナー本ではないかとの推測・指摘が多かったが……。

「国語的には、“目上の人には謙譲語か尊敬語を使いましょう”と習うわけですよね。そうした観点からすると、“了解しました”は丁寧語になるので、足らない部分はどうしてもあるかもしれません。

 そこで、当時のマナー講師が“『了解しました』よりも、『承知しました』『かしこまりました』の方がいいですね”というニュアンスで言ったことが、マナーへの興味関心の高まりや、SNSによる情報伝達の加速で、色んな肉付けがされてしまい、“『了解しました』は絶対NG!”のように誤って広まってしまったのかもしれません」(加藤講師、以下同)

 このように尾ひれがついて広まってしまったビジネスマナーは、職場の外で行われる飲み会や接待、これからの時期に行われる忘年会にも存在するという。多くの人が聞いたことがあるであろう“上司にお酌をするときは、瓶のラベル正面が上にくるようにする”というマナーも、とらわれなくていいと加藤講師は訂正する。

「ラベルの向きを上にして注ぐというのは、恐らく、レストランでお店の方がお客様に注ぐ時に、お店側の立場として生まれたマナーだと思うんですよね。

 確かに、それを職場の飲み会で、客同士である上司にできたら完璧かもしれませんが、相手がそこまで求めているかといえば、恐らく注がれているときは“ありがとう”という気持ちでしょう。自分のために注いでくれているのに、いちいち“ラベルが上じゃない!”なんて言い出したら、もはや受け止める側の意地悪になってしまう気がします」

 最後に加藤講師は“失礼に感じても、許すこともマナー”という金言を残してくれた。

「マナーというのは“相手を思うもの”です。こちらがお酌をしてあげようと思ったのであれば、相手も“お酌をさせてしまって申し訳ないな”、“ありがたいな”と素直な気持ちで受け止めてくれると思うので、ラベルの向きまでは気にしなくてもいいかと思います。

 普段の研修でも、マナーは“相手を思う気持ち”だとお伝えしています。“了解しました”にしても、受け取る立場である上司も、もし失礼に感じたとしたら、指導(指摘)すべき状況・ポイントなのかを考え、場合によっては許容してあげるというのもマナーの1つです」

 世の上司たちに求められるのは、若手に礼儀を押しつけることではなく“許す”寛容さだ。

加藤瑞貴(かとう・みずき)
日本サービスマナー協会 マナー講師。全日本空輸株式会社にて、グランドスタッフとして勤務。コンシェルジュなどを担当。 現在は日本サービスマナー協会にてマナー講師として登壇。