■3拍子が整ってこそ 体のバランスが安定
さて、数字の中でも私が大切にしているのは“3”です。
3は、仏教でも勝ち負けや損得といった“二元論”を脱する数字として尊ばれています。
はたまた、弥勒菩薩の当て字として3・6・9を神聖視したり、天才発明家のニコラ・テスラが提唱した、“3・6・9の法則”があったりと、3とその倍数は、古今東西を問わず人を引きつける何かがあります。
私の場合、相撲の稽古で、それを感じました。実は、“相撲の動作は3拍子で行う”という考え方があり、1・2で左右の足を地面について、3で体の軸を真ん中に据える――。この3拍子が整ってこそ体のバランスが安定するんです。
ここからは持論ですが、心臓の鼓動も3拍子だといわれていますから、人間が持つ本来のリズムなんでしょう。
最近は社会が、どこか不安定で争いごとも増えていますが、それは本来のリズムを忘れている結果だと、そんな気がしています。
11月23日には、全国の神社で、“五”穀豊穣を祈る、『新嘗祭』が行われます。そして、年末には、除夜の鐘が“108回”鳴らされる。これは人間の煩悩の数を表す、仏教の数字です。
日々、なにげなく目にする数字ですが、そこには何かしらの意味や歴史があります。皆さんも、身の周りの数字を少し意識して眺めてください。きっと、いつもの風景の中に、ちょっとした発見があるはずです。
貴乃花光司(たかのはな・こうじ)
1972年8月12日、東京都生まれ。88年、藤島部屋に入門。92年の初場所で、史上最年少の19歳5か月で幕内初優勝。兄・若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年11月に第65代横綱に昇進。幕内優勝22回。生涯戦歴は794勝で、「平成の大横綱」と呼ばれた。2018年に日本相撲協会を退職し、現在はテレビ、講演会等、幅広く活躍中。