相撲界の内情や制度、騒動の行方を、元関脇・貴闘力が現場目線で読み解く。経験者だから語れる、大相撲のリアルが詰まったコラム。

 大相撲九州場所で、12勝3敗で初優勝した関脇・安青錦が、場所後の11月26日、大関に昇進した。

 戦火のウクライナから来日して、3年。今年春場所、新入幕を果たしてからも連続11勝という脅威の成績を残していた。

「そろそろ壁に当たって、跳ね返されるだろう」

 と思われていた新関脇の九州場所だったが、地道に勝ち星を重ね、終盤に入って優勝戦線にからんできた。

 そして迎えた千秋楽は、大の里の突然の休場で豊昇龍との優勝決定戦となった。

 入幕以来、安青錦は豊昇龍に負けていない。九州場所14日目も押し出しで完勝。安青錦は完全に横綱に対して、自信を持っていることがよく分かった。

「優勝決定戦になれば、オレのもの」と、内心思っていたと思うよ(笑)。

 決定戦は、得意の内無双からの送り投げで、豊昇龍を土俵に沈めたが、この内無双がよく決まる。千秋楽の本割でも、大関・琴櫻相手に決めてみせたけど、「分かっていても食ってしまう」んだな。「アッパレ!」としかいいようがないが、安青錦本人に浮かれたようなところはまったくない。

 それはそうだよな。母国はロシア侵攻を受けていて、ウクライナは18歳で徴兵制度があるから、本来なら、腕っぷしの強い安青錦はいの一番に戦争に駆り出されていただろう。彼の同級生たちはその真っただ中で、生死を賭けて戦っているわけだから、ヘラヘラした態度なんか取れるわけがない。