■日本人が使わない言葉とは?

“言葉があるのに使わない言葉”というのは、どういう意味か。マライさんいわく、「日本語としてちゃんと存在しているのに、日本人は生活の中で絶対といっていいほど使わない言葉がある」というんです。

 それが、「いいえ」。

 日本人って、「いいえ」を使わないっていうんですよ。

 あれ? そうかな? と思うんだけど、マライさんが観察したところでは「いえいえ」とか、ちょっと柔らかい言い方はするけれど、“イエス・ノー”の「ノー」にあたる「いいえ」は使わない。つまり日本人は会話の中で、ド直球に「いいえ(ノー)」とは言わない。

 じゃあ日本人はどんなふうにして、この「いいえ」を巧みに避けようとするのか。

 例えば、「あなたは英語をしゃべることができますか?」と聞かれたときに、こう答えるでしょう。
「はい、できません」

 これが英語なら「ノー」と否定するところを、日本人は「いいえ」とは言わない。しゃべれますか? と聞かれて話せないのであれば、「いいえ、しゃべれません」と答えるのが海外の感覚でしょう。

 とにかく、「ノー」であるところの「いいえ」を避けるそうです。「いいえ」を使うにしろ、「いいえ、分かりません」とか「いいえ、ごめんなさい」とか、強い否定語としての「いいえ」を使いたがらない。それは“言葉があるのに使わない”日本語の大きな謎ではなかろうか。

 そんな不思議な不思議な日本語の特徴として、マライさんは、こんなふうに述べておられます。

言葉の表面的な意味はあちこちに大々的に看板のごとく掲げられているが、本質はその看板の奥の「開かずの間」の内に鎮座しているのだ

 日本人がなにげなく使っている言葉の中には、その言葉の奥に閉じ込めた“まったく別の意味”が秘められているものがある。

 じゃあ、どの言葉が、どんな“開かずの間”を秘めているのか。具体的に見ていきましょう。

【外タレ(名詞)】

 これは、もちろん「外国人タレント」の略称ですが、日本語はその言葉の意味だけではなく、もっと深い意味を含んでいる言葉だと、先ほども言いましたね。