■“全員を匂わせた”『良いこと悪いこと』
ただ、この3人については、早い段階から怪しいという声があった。X上で、《1話で犯人候補だった委員長の出番が殆どない。犯人は園子の同期の東雲晴香が有力か?》《高木とイマクニに行った同級生が全員事件に巻き込まれている》など、学級委員長だった小林紗季(藤間爽子/31)などでミスリードを誘うも、常に3人が注目され続けていた。
また、“ターボー”こと小山隆弘(森本慎太郎/28)が間一髪で助かったときは、《キングが「ターボー!」って叫んだだけなのにターボーはすぐ上をむいたよね?分かってたのかな?》と、小山に関する考察が急増。さらには高木(間宮)が挙動不審ことから、高木二重人格説や、不自然な空気の妻・加奈(徳永えり/37)が怪しいという声もあり、早い段階でほとんどの登場人物に怪しい匂わせをしていた。
ここまで多くの登場人物を、しかも早い段階で匂わせ描写をする考察ドラマはなかった。これまでは、だいたい1人か2人に怪しいターゲットを定め、匂わせをしては犯人ではないことを明らかにして引っ張っていくパターン。本作は同時多発的に怪しい人を発生させ、匂わせを何度も何度も繰り返して引っ張るパターン。それが今までと違うところだった。
この状態で話が進んでいくので、とにかく全員が怪しく思えて、考察が迷走し始める。また、毎回変わるオープニング映像をはじめ、考察に関するヒントがあちこちに散りばめられているので、ついつい配信を見返してしまう。配信が爆発的な伸びを見せたのは、そんな独特なドラマ構成にあるのだろう。
『あなたの番です』や『真犯人フラグ』のように、“ご都合主義”や”犯人の動機が納得感に欠ける”などとツッコまれることなく、最後まで視聴者を引き付けていたのは脚本の巧みさもある。本作はある意味で進化した考察ドラマだった。それが勝因なのだろう。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。