■ネットに呪いの言葉を書く人が求める“救済”
これも一種の呪詛、呪いですよね。実際に、この日本を呪う書き込みが発端となって、待機児童問題が国会でも取り上げられるなどの日本国中を巻き込む大騒ぎとなり、その年の新語・流行語大賞のトップ10にも選ばれました。
現実問題として、芸能人などに顕著ですが、ネット上に書き込まれる「死ね!」「消えろ」などの攻撃で非常に苦しんでおられる方がいるし、現実に、それを苦に自死なさった方までおられる現状がある。
つまり、日本社会では「呪う」という行為は現役です。
古臭いかつての風習ではなくて、日本社会では、いまだに“現役の感情”として通用するわけです。インターネット等々で誰かを批判や非難するときの発言、あれは“呪いの言葉”なんですよね。
実は私、「呪い」ということに関して昔から、ちょっと興味がありまして。内田樹さんという哲学者にして大学名誉教授の方が、10年以上前にお書きになった『呪いの時代』(新潮文庫)という本を以前に読ませていただいたことがあります。“現代の呪い”について内田先生は、こう書かれていました。
弱者は救済を求めて呪いの言葉を吐き、被害者たちは償いを求めて呪いの言葉を吐き、正義の人たちは公正な社会の実現を求めて呪いの言葉を吐いている。けれども彼らはその言葉が己自身の呪いとして機能していることをあまり自覚していないように思われる
日本には昔から呪いをいさめる素晴らしいことわざがあります。
人を呪わば穴二つ
人を呪うっていうのはパワーが必要で、その同じパワーが自分にも向かってくるのが「呪い」というものの恐ろしさ。だから人を呪うと墓穴を二つ掘らないといけないという意味の言葉です。「呪った自分も、その墓穴に落ちていく」という昔ながらの教え。
さらに、内田氏は呪いの言葉を使う人たちについて次のように批評しています。
僕たちの時代にこれほど利己的な振る舞いが増えたのは、人々が自分をあまりにも愛しているからではありません。自分を愛するということがどういうことなのか、忘れてしまったせいです
呪いの言葉を吐く人はネット上にも、現実社会にもいっぱいいます。その人たちの一番の欠点は、「自分を愛していない」ということ。
自分の愛し方を忘れた人たち。つまり呪う人たちの正体は、“自分を愛せない人”なんだ。呪いの言葉で他者を非難するとき、その人は自分を愛することを忘れてしまっていると言えるでしょう。
じゃあ我々は他者から呪いをかけられた場合はどうしたらいいのか?
内田先生によれば、「祝福」。
相手を祝福することだそうです。
……でも、無理ですよね。その相手が自分のことを呪っているんだもの。「おめでとう」だなんて言えないですよね。
そこで武田からの提案です。
人から呪いをかけられたら、その分だけ自分を愛しましょう。
それも、ものすごく手近な方法でいいんです。湯豆腐でもつつきながらキューッと熱燗を一杯やって、ハーッとため息をつく。そして、ひと言「うまい」って言うと、それは自分を愛した証拠です。キュッと飲んで幸せなため息をついた瞬間、それで呪いが解ける。
この呪いの解き方、“呪い返し”が一番いいんじゃないかな。……私は、そう思うんだなぁ。
ドイツ出身で、文芸評論に翻訳、コメンテーターなど、幅広く活躍するマライ・メントライ。彼女が日本語の構造や日本人の感性を論じた話題作。鋭い観察眼に、つい、ハッとして唸ってしまう。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。