■不況が豆腐屋を後押し
豆腐屋がオープンしてから少したつと、上の住民が買いに来るようになった。文句を言おうが、やっぱり便利なんですよ、下の階に食べ物を売ってる店があるというのは。
いずれ顔なじみになってしまえば、豆腐屋があることが日常の風景になってしまう。あのとき文句の一つも言わずに即謝罪し、誓約書を即書いたことで、近隣住民がお客さんになるんですね。
このあたりのエピソードは、タバコ屋が実家の私にはジーンと来ます。子供の頃に聞いた、かあちゃんの説教を思い出すんだよね。
「タバコ一個、どこで買っても同じものを、笑顔つくって売らんと、売れるもんじゃなかぞ」
いかに、お客さんと良好な関係を築くか、それが商売を営むうえでは大事なんですね。
さて好スタートを切った清水豆腐店ですが、その一つの理由はスペインが不況だったこと。経済的に苦しい大不況が清水豆腐店を後押ししてくれた。
とにかく、ここの商品は安い。今でもそうですが、日本と比べてユーロ圏の物価は高い。それは当時も同じで清水さんの豆腐屋で売ってる商品の値段は日本基準で付けられていたために他の店よりかなり安かった。中でもジャパニーズ弁当の売れ行きは各段で、「あそこに安くて、うまい弁当が売ってる」と評判になった。
スペインは昼休みに、だいたい皆さん、自宅に帰って、ゆっくり食事をする習慣があるそうです。それゆえに昼休みは2時間ほどと、たっぷりある。ところが、不動産バブル崩壊とリーマンショックによるダブルの不況の煽りで、バルセロナにある会社が一斉に、2時間の昼休みを1時間に短縮しちゃった。
1時間しかないと帰って食べるわけにいかない。そのへんで急いで昼飯を食わないと、午後の仕事に間に合わない。オフィス街の近くにはレストランがあることはあるけれど、そこで食べると、だいたい10ユーロ(当時約1300円)かかる。
ところが清水豆腐店で売ってるカツ丼弁当は、なんと半値以下の4.9ユーロ(610円)、幕の内弁当が5.7ユーロ(710円)。弁当を買ってオフィスで食べれば十分に、おなかいっぱいになるうえに、よそで食うより、おいしい。