■冷静にならなければならないのは子供より大人のほう

 さらにはSNSカルチャーが、この動きを加速させたと奥窪氏は続ける。

「TikTokを見ると“このシール持っていない奴はモグリ。ダサすぎるっしょ”みたいに射幸心を煽る動画が山ほど流れてきます。そういう動画を作っているインフルエンサーは、もちろん小学生じゃなくて成人。まっとうな大人なら“そんなものに流される必要はないのよ”とたしなめるところでしょうが、現実は逆に親のほうが、“ほら! 今日発売のやつ、誰も持ってないのをゲットしてきたよ”などと与えてしまう。そこが一番厄介なところですよね」

 ブームが過熱化したことで、ボンドロのニセモノも多く出回るようになった。世界最大級の通販サイト『AliExpress』などでは中国産のフェイク製品が多数販売されているが、奥窪氏は「もちろん著作権や商標の問題はある」としたうえで、「意外に子供は本物かどうかなんて気にしていない」と現場の空気感を解説する。

「ボンドロがないのなら、おしりシールやフロッキー(ともに人気シール)でもいいという考えの子も実際は多いですからね。だけど親は頭に血が上っちゃって、“あんたの子、うちの子に中国製のニセモノを掴ませたんだけど!”などと怒鳴り込んできたりする。子供同士では曖昧に済まされていたことも、親が出てくると一気に“詐欺被害”という話に進展するわけです」

 ネット上では「中国人の転売ヤーが人気シールを買い占めている」という説も出ているが、このテーマをかねてから取材している奥窪氏は「今のところ、そういった動きは目立っていない」と冷静に分析する。

「ハッピーセットやポケカは中国マーケットで大きな市場になった。本国に持っていけば売れるから、中国人転売ネットワークのターゲットにされやすかったんです。でも、シール帳というのは日本のドメスティックなカルチャーなんですよね。だから今のところ、転売ヤーも日本人ばかりです。一応、定価の4~5倍つくこともあるけど、ポケカのように1枚で何百万円も値がつく投機対象と呼べるレベルではない」

 では、はたして“シール狂騒曲”は今後どうなっていくのか? 

「子供の流行サイクルは本当に残酷なほど速い。ラブブはあっという間に転売価格が下がりましたし、小学生の興味対象はすでにシール帳からスクイーズに移行しているという意見もあるくらいです。ちょっと冷静になったほうがいいと思いますよ」

 キラキラ輝くシールの裏側で、ドス黒く濁る大人のエゴ。半年後にレアなシールも埃まみれで二束三文になっているとしたら、今、血眼になっている親たちは何を守ろうとしているのだろうか?

奥窪優木(おくくぼ・ゆうき)
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。16年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社)、『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)など。