■スーパー、コンビニ、専門店各社の戦略

 その流れを象徴するのが、スーパーを中心に存在感を増している“一個で食事になる”大型おにぎりだ。

「お弁当よりは安く、普通のおにぎりよりは満足感がある商品ニーズが非常に高く支持を集めています」

 この分野で目立つのが、イオンの『おおきなおむすび』シリーズ。

「中でも『おおきなおむすび 煮玉子』(税込み300円)は煮玉子が1個そのまま入っていて、食べ応え抜群。まさにこれ一つで昼食が成立する完結型のおにぎりです」

 一方、コンビニも押されっぱなしではない。忙しい仕事のランチ時や大学の授業の合間など今すぐ食べたい需要をつかむ機動力に加え、定番具材の安心感で勝負する。値上がりしてもツナマヨ、サケ、昆布といった定番具材の安心感も、コンビニの大きな武器だ。

「おにぎりは具材、サイズ、価格、握り方まで、さまざまな要素で差別化できる商品です。“この具が食べたいから、このコンビニに行く”という客も少なくない。ツナマヨが強い店、いくらが強い店、大きいサイズが売りの店それぞれの色が出やすい。おにぎりはコンビニの差別化戦略そのものなんです」

 そんな中村氏がコンビニのオススメとして挙げるのが、ローソンの「しば漬けしそひじきおにぎり(国産もち麦入り)」(税込み138円)。

「海苔と米の高騰に対し、あえて海苔を使わず、もち麦をブレンドして低価格を実現した知恵の一個です」 

 高くするだけではなく、工夫して守る。そこにコンビニの底力がある。

 一方、専門店が売っているのは、単なるおにぎりではない。そこにあるのは、コンビニやスーパーでは得にくい体験価値だ。

「専門店は、スーパーやコンビニがまだなかなかできていない“握りたて”という体験を提供しているのが大きいです。温かいおにぎりを食べられるという付加価値ですね。今は家庭でも温かいおにぎりを食べる機会が減っていますし、握りたてのおにぎりを食べる体験自体が、若い世代にはかなり刺さるんです」

 テイクアウトで中村氏が推すのは、東京・十条の老舗「蒲田屋」の「なすみそ」。全品170円という、専門店としてはかなり手が届きやすい価格でありながら、味はしっかり本格派だ。さらにイートインなら、名店・宿六の生姜味噌漬け。目の前で握られる光景も含めて味わう、まさに“ごちそうおにぎり”である。

 それぞれのフィールドで強みを生かす――。おにぎり一個に、時代の流れと知恵が詰まっているのだ。

中村祐介(なかむら・ゆうすけ)
おにぎりを日本が誇る「ファーストフード」、「スローフード」、「ソウルフード」であると定義し、その文化的背景も含めて国内外に普及させていくことを目的にして発足された、一般社団法人おにぎり協会の代表理事を務めている。好きなおにぎりは「梅」「明太子」