武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。

 朝日新聞社を定年退職した著者がバルセロナに移り住み、大好物である豆腐を売って生計を立てるという、なんとも大胆にして思い切った転身を描いたドキュメント『バルセロナで豆腐屋になった~定年後の「一身二生」奮闘記』(岩波新書・清水建宇著)を題材に話を進めております。《#01はこちらから》《#02はこちらから》《#03はこちらから》《#04はこちらから》

 オープン初日から抗議が来たり、近隣レストランからのクレームで値上げせざるをえなかったり、当初は予想できなかった事態に直面しつつも、豆腐屋は上々の滑り出し。

 しかし、清水さんにも誤算があった。それが、予想していたほど豆腐が売れなかったこと。

 

  開業の初日こそたくさん売れたが、落ち着いてくると売れ行きが鈍った。木綿豆腐は厚揚げにする押し豆腐を含めて六〇丁、絹豆腐は四〇丁、合わせて一〇〇丁どまり。売り上げの構成比を見ると、揚げ物や納豆を含めた「豆腐類」が四割、弁当や総菜が四割、即席めんなどの食料品が二割だ。これでは「豆腐も売っている弁当屋さん」と言われても返す言葉がない(清水建宇.『バルセロナで豆腐屋になった――定年後の「一身二生」奮闘記』. 岩波新書, 2025, p.83)

 

 ここで清水さんの記者魂が燃えた。バルセロナで売っている競合の豆腐屋の商品を自分で食べて調査してみることにした。

 バルセロナから620キロも離れたマドリードにライバルがいて、日本人が経営する豆腐屋。2階建ての大きな工場で10人ほどの従業員がいて生産量が一日3000丁。バルセロナを含めたスペイン全土に販売網を持ち、なんとフランスやドイツにも輸出しているという大手豆腐メーカー。一日100丁の清水豆腐店に対して、ライバルは一日3000丁。生産量じゃ、とても太刀打ちできない。アジア食材店で一丁購入した清水さん、さっそくライバル店の豆腐を食べてみる。

 

  日本のパック詰めの豆腐と違い、柔らかなビニール袋に豆腐と水が入っている。(中略)袋から出して豆腐を食べてみた。堅くてざらざらした舌触りだ(清水建宇.『バルセロナで豆腐屋になった――定年後の「一身二生」奮闘記』. 岩波新書, 2025, p.84)

 

 当然ながら、保存料を入れないと輸出用にならない。そのために消費期限はなんと3週間。日本の豆腐を食べてる我々には信じられないような消費期限の長さで、清水豆腐店の豆腐とは似ても似つかない別物。