■ライバルの中国人が営む豆腐屋の商品は安いが…

 バルセロナには中国の人が作っている豆腐店もあるそうです。もともと豆腐は中国でできたもの。奈良時代に中国に渡った遣唐使や僧侶らによって伝えられて、それを日本が学び、江戸時代に最盛期を迎えて庶民に広がった。

 お寺の坊さんたちが工夫して生み出した高野豆腐なんかも、日本流にアレンジして進化させてきた。

 清水豆腐店のライバルと思われた中国人経営の豆腐店ですが、一丁が1.3ユーロ(約160円)とバルセロナで売られている豆腐の相場より、かなり安いものの、物が良くない。

 

  安いが変色しているものもある。和食レストランの経営者は「中国の豆腐を一〇丁買ったら六丁が酸っぱくなっていて捨てたことがある」とぼやいていた(清水建宇.『バルセロナで豆腐屋になった――定年後の「一身二生」奮闘記』. 岩波新書, 2025, p.108)

 

 清水さんはこう書かれておりますが、変色して酸っぱい豆腐なんて食えたもんじゃない。清水さんの豆腐と同じぐらいの値段ですが、品質の差は歴然。豆腐という食品を発明したのは、かの国でありますけれども、現在では日本とは雲泥の差がついている。ひと言でいえば、清水さんが作るのは“ホンモノの豆腐”なんだ。

 私はね、このエピソードを読んだときに思いました。

「あ、これがジャパンファーストだ」って。

 ジャパンファーストという言葉が政治的な課題として持ち上がっていて、日本人を優先するというのが政治的な目標にもなっているけれど、でも、私が思うに、この言葉の本当の意味は、奈良時代から続く豆腐の作り方を今も頑張って受け継いでいることを「ジャパンファースト」って言うんじゃないかなと。

 何もマイナンバー持ってるから、税金払ってるから日本人じゃないんだよ。こうした日本の歴史を受け継いだ技術を持ってることが、日本と日本人の証なんじゃないかなぁ。

 そう思いませんか?

 よーく見てください。インバウンドで来た外国の人たちと自分たちの違いを。私はいつも思いますけどね、異国の人たちと食事をするでしょ、日本人ってね、なるべく残すまいとしてますよ。バイキングスタイルでも食べる分しか取ってこない。これがジャパンなんですよ。ジャパンファーストっていうのは、そんなふうに“日本の流儀を持っている”ということなんじゃないかなあ。

 清水さんは豆腐作りにおいて、徹底したジャパンファーストなんですよ。やっぱり、マンゴー味とかじゃないんだよ。

 最後に、武田が「この人はジャパンだなあ……」と思うのは、一発で卵かけご飯を作る人。

 小鉢に卵割って醤油かけて、ご飯にかけて混ぜる。ドロドロのところとかなくてキレイに均等に混ざって、それが実に、おいしそうな卵かけご飯なのよ。

 自分はできないから余計にそう思うんだけど、一発で卵かけご飯を作るやつ見ると思うんだよね。

「こいつ、日本人だなあ」って。

バルセロナで豆腐屋になった ――定年後の「一身二生」奮闘記
バルセロナで豆腐屋になった ――定年後の「一身二生」奮闘記

元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。ゼロからの修行の日々、異国の地での苦労、新たな出会いと交流、ヨーロッパから見た日本とは――。人生後半の新たな挑戦を目指す人々に贈るエッセイ。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。