■森本慎太郎が表現する複雑な心情が痛々しくて

 森本が演じる山里は、「こんな男子いるかも」と思えてしまうところに、おかしみがある。進路希望に「何者かになる」と書いた山里は、自分がブレながら生きていることを自覚していた。好きな女子が文系を選択したら、自分も文系を志願するぐらいに軽率な自分にも、嫌気がさしていただろう。

 だけど、仲のいい友だちに「山ちゃん、面白いから芸人になったら」と言われて、本気で芸人になることを考え始める。好きな女子が「面白い人が好き」と言っていたこともあり、登下校時に休み時間と、時間があれば特訓を始める素直さがほほ笑ましい。

 ある日、自分を試してみようと思ったのか、好きな女子と彼氏が入ったカフェに乗り込み、大胆にも隣の席に座る。そして冷たい水を飲み、意を決した山里が大きめの声で話し始めるのだ。まるで、隣の席に聞こえるように、好きな女子に聞いてもらえるように話しているようだった。

 内容は、自分がいかにモテないかをつらつらと語る自虐ネタなのだが、好きな女子を笑わせることに成功する。クスクス笑いながら「山里くん、面白いね」と言ってもらえたことは、最高にうれしかっただろう。そして、彼氏と手をつないで喫茶店を出ていく姿を見て、勝手に失恋するのだ。

 なんだろう、まるでフラれに来たみたいではないか。失恋の痛々しさ、笑いを成功した喜びといった、真逆の感情が複雑に絡まった表情にグッとくる。一緒にいた友だちも言っていたが、この時の山里は最高にカッコよかったし、演じる森本がいかに丁寧に演じているかが伝わってきた。

 若林と山里、しばらくはそれぞれの人生を楽しむことになるだろう。いつか出会うその時まで、演じる高橋と森本それぞれの、情熱ある芝居を堪能したい。(文・青石 爽)