■日本テレビが見せた新たな挑戦

 現に、3月18日に行なわれたNHKの定例会見で井上樹彦会長は「放送権料の著しい高騰で、国民的スポーツイベントを視聴する機会が限られるのは、競技普及の面からもあまり好ましいことではない」と語り、誰もが自由に情報にアクセスできる“ユニバーサルアクセス権”の重要性を説くも、「受信料で運営されているNHKとしては、放送権料を無制限に支払うことはできない。海外の状況、国民的議論の動向を見極め、放送すべきスポーツコンテンツを取捨選択していく」と、今後のWBCの放送には消極的な姿勢を示したのだ。

 公共放送のNHKですら放送を躊躇する姿勢を見せるWBC。一方、従来とは別の形でWBCの“放送”にかかわったのは日本テレビだ。「中継制作受託」という形で、15試合のNetflix独占ライブ配信映像の制作を手がけた。試合の生放送こそなかったものの、『ワールドベースボールクラシック詳報』として、日本戦と決勝ラウンドを含む計7試合について現地との生中継も行なった。前出の鎮目氏が解説する。

「テレビ局は、大きく2つの機能があります。一つは電波を持っていて、コンテンツを配信するプロバイダーとしての側面。もう一つはそこで流す番組を作る制作会社としての面です。

 WBCで言えば、プロバイダーとしては採算を取るのは放映権料の高騰もあり現実的ではない。一方で、制作会社として“スポーツの生中継”を行なうノウハウは、動画配信サービスより圧倒的に強い。今後は、配信サービスを相手に各テレビ局が“ウチで配信番組を制作させてください”とお願いするような流れになるでしょう」

 配信サービスが手掛けるスポーツイベントの生中継に“参加”することで、テレビ局にもメリットがあるという。

「制作に関与することができれば、自局のニュースなどで優先的に試合の模様を使えるというメリットがあります。試合の結果を長時間ニュースで扱うだけでも、WBCのような国民的イベントであれば視聴者を獲得することも可能でしょう。今回、日本テレビがWBC関連の番組を作ることができたのは、Netflixの制作を請け負っているからこそです」(同)

 国民的スポーツイベントであるWBCを黒船動画配信サービスに奪われた2026年。日本の地上波テレビは今、大きな岐路に立たされている。

【後編】もはや地上波テレビは敵ではない?Netflixが150億円を払っても「WBCを独占配信したかった理由」を元キー局Pが解説#2では、Netflixが本命視するライバルの存在と視聴者を手放さないための戦略を元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏が解説する。

鎮目博道
テレビプロデューサー。92年テレビ朝日入社。社会部記者、スーパーJチャンネル、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」初代プロデューサー。2019年独立。テレビ・動画制作、メディア評論など多方面で活動。著書に『アクセス、登録が劇的に増える!「動画制作」プロの仕掛け52』(日本実業出版社)『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)