■ナラティブな歌い手は逆の表情で付加価値を
ここで武田がお勧めするナラティブなシンガーは、八代亜紀さん。
彼女は『おんな港町』や『もう一度逢いたい』なんていうヒット曲がありますが、演歌シンガーなんで、曲の泣かせどころは涙を誘うフレーズになっている。『おんな港町』なら“女心は誰にも理解してもらえない”というのを嘆くように歌うのが演歌の王道。
ところが八代亜紀は泣かせどころで嘆かない。笑うんですよ。
♪別れの涙は 誰にもわからない~
悲しみのメロディをにっこり笑って歌うのよ。悲しみがピークに達した、そのメロディを笑顔で歌うの。
これがナラティブなのよ。ストーリーが見えてくる。つまり女の悲しさを、にっこり笑って歌うことで強烈な奥行きを感じさせるんだ。これが八代亜紀というシンガーの付加価値なんですね。
歌がうまいのは当たり前なんだ。
それだけじゃナラティブにならない。悲しいメロディのところで、あえて逆の表情を作って歌うからナラティブになって付加価値を生みだす。
この“泣かせどころでニッコリ笑う”というのは、よっぽどの力量がないと、できません。実はこれ、美空ひばりさんがやってたのよ。美空ひばりは泣かせどころでニカッと笑うんだよね。あとは三波春夫さんと北島三郎さん。
北島さんは何年も流しをやっていたけど、さっぱりチャンスが来ない。渋谷の流し弾きのあんちゃんが自分の運命を呪って歌うわけよ。
♪花の都へ来てから五年 とんとうきめの出ぬ俺さ(『ギター仁義』)
ここが泣かせどころなんだけど、そこで北島三郎が笑うのよ。このときに痛烈な物語=ナラティブを、お客に見せる。
この“あえて逆のこと”を売りにするというのは商売でもあります。たまに地方で見かけたりするラーメン屋の『日本で2番目にまずい店』という看板。
売りたいことと逆のことをキャッチコピーにしちゃう。これが付加価値を生む原動力になる。お客が「本当に、この店は日本で2番目にまずいの?」と聞いてきたら、「試してみますか?」のひと言で客は笑う。これも付加価値。
武田鉄矢の場合でも説明しましょう。私でいうと、ドラマでいただいたキャラクターで“先生”のイメージがあります。だから皆さん、私が語り出すと先生の話を聞く生徒のように、私の話を聞きたがる。でも、それじゃあ、皆さんが私に期待している以上の付加価値がつかないんだ。
どうすればいいのか。“先生”というポジションから、いったん降りてみて、まるで“生徒”になったつもりで話をする。何か疑問があれば、知ったかぶりをせず素直に、
「分かりません。教えてください」
と、お願いすること。いい意味で期待を裏切ることで、人を引きつけられるようになる。
これが私のナラティブの作り方で、付加価値のつけ方。皆さんも、ふだんの自分とのギャップを演出してみてはいかがでしょうか。
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商品もサービスも人も…価値がなかなか伝わらないのは、「付加価値をうまく作れていないから。
仕事はもちろん、人生にも役に立つ一冊。」(著)柿内尚文、ポプラ社刊。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。