■業界用語が日常に浸透したケースも
他方、飲食業界でも、新人が洗礼を受けるケースがあるという。
「飲食店では、捨てることを投げると言います。元は、東北地方の方言なんですが、お客さんの前で捨てると言うのはイメージが悪いので、今は隠語のように使われる。
寿司屋の大将が“このネタ、投げとけ”と言った後に、“何やってんだ!”という怒号が聞こえたら、きっと、厨房にいる新人の子が、本当にぶん投げちゃったんだと思うよ(笑)」(寿司店店主)
接客の現場では、隠語のような言葉が使われることが珍しくない。最終ページのタクシー用語にある大きな忘れ物もそうだが、身近なところでは電車の車内アナウンスも、しかり。
「車内アナウンスはウソがつけないので、ぼかした表現が多いですね。
例えば、“車内点検のために停車中です”は、その多くが痴漢対応を、“車内清掃をしています”は乗客の嘔吐物を処理している状態を指すことがあります。直接的に言わないのは、駅や車内を混乱させるおそれがあるからです」(鉄道会社社員)
同様に、一般人にはあまり知られたくない業界用語もあるそうで、
「不動産業界では、条件の悪い物件を当てもの、客引き用を引きものと呼びます。業者同士の会話で、聞こえたら要注意。
また、旗竿地(はたざおち)というのは、旗のような形状の土地を指します。入り口が細く、奥まで行かないと開けてないような不便な土地で、家を建てるのに向いていません」(不動産会社勤務)
『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』(彩図社)の著者で、ノンフィクションライタ―の石原行雄氏いわく、キャバクラ業界には、色管(いろかん)という用語があるとのこと。
「店長や支配人などの運営側の人間が、キャストの女の子と恋愛関係を築き、その関係性で管理することを指します。
売れっ子が出勤しなくなったり、他店に引き抜かれるのは大きな損失ですから、そうならないように惚れさせるわけです。もちろん、下っ端の黒服がキャストに手を出すのは、ご法度ですよ」
ホスト業界では、営業行為とは無関係に自分の好みの客と関係を持つことを趣味枕と言うが、それに対し、キャバクラでは、
「ボトルを入れてもらうために積極的にお客さんと関係を持つ鬼枕のキャストが、まれにいます。
同業者からは、ボトルを入れてもらうために客と寝るなんてコスパが悪い行為だと、あまり好意的には思われていませんが、お客側からは歓迎されることも少なくないようです」(前同)
最後に、業界用語が日常に浸透した珍しい例を紹介しよう。代表的なのが、芸能界の言葉だ。
「特に、ダウンタウンの松本人志さんの影響は大きいです。空気を読むやスベるは有名ですが、ドン引き、ダメ出し、ハードルを上げる、ドヤ顔など、他にも広まった言葉は数知れず。
彼自身は、関西の芸人用語をアレンジしたと言っていますが、関係者の間だけでなく、バラエティ番組の中でも使用したことで、一般化したのは明らかです」(芸能ライター)
言葉を知れば、世界の見え方が変わる。それが業界用語の面白さだ。
小川泰平(おがわ・たいへい)
1980年4月から2009年12月まで神奈川県警察の警察官を務め、警察局長賞や警察本部長賞などを受賞。現在は、犯罪ジャーナリストとして多数のメディアに出演中。
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際政治経済学者。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所(CSIS)、米議会調査局(CRS)等を経て、参議院議員に当選。総務大臣・外務大臣政務官を歴任。『ヘッジファンド』など60冊を超えるベストセラー作家。著作の多くは中国、韓国、ベトナムなど海外で翻訳出版されている。創作漢字アーティストとしても活躍中。
石原行雄(いしはら・ゆきお)
1969年、東京生まれ。法政大学社会学部社会学科を卒業後、数社の出版社勤務を経てフリーランスに。「命を作る現場から命の消える現場まで」をモットーに、売買春、違法薬物、違法賭博、カルト、自殺など、危険地帯や裏社会関連を主に取材。国内だけでなく、イラク、アフガン、北朝鮮、シリア、ミャンマーなど、戦場や紛争地帯を含め海外取材の経験も豊富。『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『少女たちの裏稼業』など著書多数。書籍の執筆や雑誌等への寄稿以外にテレビコメンテーターとしても活動中。