■売れない野菜に物語を付与する“魔法の言葉”
このナラティブを、うまいこと使ってマイナスをプラスに変える魔法の言葉がある。
それが「訳アリ」。
皆さんもスーパーなどで目にしたことがおありでしょう。「訳アリ野菜」とかね。
「訳アリ=事情がある」ということ。例えば「売れない野菜」であれば、形が悪いとか諸事情により通常の野菜と一緒に並べては売れない。そのまま「売れない野菜」じゃ何の物語も生まないけれど、言葉をわずかに変えて「訳アリ野菜」とすると印象が、ちょこっと変わる。「どんな訳があるんだろう?」と聞きたくなる。
この言い換えで、いっぺんに言葉の響きが変わる。「実は今年の寒さで葉っぱの先のほうだけが細くなってて」とか「形は悪いですが、味は最高です」とか、そこにナラティブを感じることで、売り物になる。
かつて青森のリンゴ農園で、こんなことがありました。
その年は台風の影響で、せっかく実ったリンゴがいっぱい落ちてしまった。落ちたリンゴは売り物にならない。落ちなかったリンゴがわずかながら残っているものの、個数が少ないので箱詰めで出荷できない。農家の人は「なんとかを売ることができないものか」と考えた。
そこで「落ちないリンゴ」とキャッチコピーをつけて2月頃に出したら、これが売れた。通常の3倍の値段を付けたにもかかわらず売れた。
なぜか。「落ちないリンゴ」だから縁起がいいってことで、受験のお守りとして売れた。これもナラティブ。ユーモラスな物語が生まれて、付加価値がついた。
私は、このナラティブについて、昔出会った、ある老年のおじさんのことを思い出しました。
あれはまだ私が若かった頃。いつも車を停めるコインパーキングに、管理人のおじさんがいて料金を手渡しで支払っていました。私は彼と立ち話をするのが大好きでしてね。
あるとき、おじさんが珍しく、ふと自分の人生を振り返るようにして、私にボソッとボヤくんですよ。
「オレは、どうにもついてない一生で、今じゃアンタ、駐車場の番人になっちゃったよ」
そう嘆くもんだから、私も「そんなことないよ」と励ますと、おじさんが言うんだ。
「だけど武田さん、やっぱりオレは生まれたときから名前が悪かった。ついてないはずだよ」
思わず「え?」と聞き返すと、おじさんがニヤッと笑って言うのよ。
「オレの名前、“出口”っていうんだよ」
この話で、その日は半日ぐらい笑いました。
つまり、これもナラティブ。おじさんの名前にストーリーが生まれて、その人の生き方自体が印象に残る。
これぞ、付加価値の作り方ではないでしょうか。
商品もサービスも人も…価値がなかなか伝わらないのは、「付加価値をうまく作れていないから。
仕事はもちろん、人生にも役に立つ一冊。」(著)柿内尚文、ポプラ社刊。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。