■削除される前に「証拠集め」を
開示請求をはじめとする法的措置は“ネットいじめ”の標的になった人なら誰でも進めることは可能。だが、発信者が技術的に特定可能な場合でも、請求が棄却されるケースは多いのだという。
「開示請求やアカウントを削除させる請求というのは、裁判所の判例を中心に結果の判断がされやすいです。脅迫的もしくは差別的な表現や、例えば “残業代未払い” “ブラック企業”などの特定企業に対して社会的な地位を下げるような発言は開示が認められやすいですが、特定の人に対しての“ワンマン主義”“機嫌で言うことが変わる”といった表現は、一般的な不平不満の範囲内と見なされて棄却されることが多いです」
また、明らかにその人を指しているとわからない場合も判断が難しい。
「対象の名前を頭文字だけだと、特定されないこともあります。その場合は、前後の文脈や投稿経緯から特定の個人であると明確に判別できないと、請求が通らないことが多いです」
ちなみに発信者も対象者も特定できる場合でも、
「サイト上のオープンな場ではなく、ダイレクトメッセージ(DM)など非公開の場での嫌がらせは民事手続きでの開示が難しいので、そうしたケースは直接、警察へ相談することが推奨されています」
最終的には訴訟も視野に入れた手段だけに、そのハードルはかなり高いといった印象の開示請求だが、開示請求が認められそうな場合、手続きとして次にやるべきことは何か。
「まずは“証拠”を押さえることです。ネットの書き込みは即座に消去される可能性があるので、スクリーンショットやPDFで被害状況を正確に残す必要があります。この際注意するのは、URLが完全に表示されていることと、投稿日時が画像に含まれていること。過去の判例でもこれらが分からないと“証拠価値なし”と判断された例があるので、注意が必要です。ちなみに、プロバイダのログ保存期間は、携帯キャリアなどでは約3〜6か月です。また、刑事告訴を希望するなら、“犯人を知った日から6か月以内”という期限もありますから、スピーディに動くことが大切です」
なお開示請求などインターネットを巡る法的措置は、まだ件数も少ないのが現状。それゆえに、扱った経験のある弁護士も、現段階では少ないのだそう。
「接続先IPアドレスやポート番号などインターネットの技術的な専門知識が必要で、近年では「FC2」や「5ちゃんねる」など、海外のサーバや会社を経由しているという問題が発生することも珍しくありません。そうした難点も理解できる弁護士を選ぶ必要もあります」
とはいえ、法的手段にまで持ち込まないで済むのが一番。最後に岡本氏は、こうアドバイスする。
「あえて様子見や無視をするなど、“気にしない”という対応も、ヒートアップを鎮める方法としては得策です。あるいは自身のSNSアカウントで反論をして周囲の目に誹謗中傷を周知したり、法人の場合は“ニュースリリース”を出したりといった対応も、抑止に有効な場合があるといわれています」
便利になった一方で、不特定多数からの攻撃が可能となってしまったSNS時代。自分の身を自分で守る術は知っておく必要がありそうだ。
岡本匡司(おかもと・ただし)
弁護士(第二東京弁護士会)。早稲田大学大学院理工学研究科修士過程(建設工学)を修了後、総合建設会社の西武建設(当時は西武グループ)に20年間勤務。その後、東京大学法科大学院を経て2022年に弁護士登録し、スタートアップ企業、エンターテイメント会社等の企業法務や建設不動産法務案件、債権回収、債務整理などの一般民事事件に従事。
一級建築士としての建築物に関する広範な知識、企業経営・建設業界の知識、再編会社での事業再生の経験、継続的に利益が出せる企業の意思決定プロセスの理解などを活かして、建物瑕疵、建設不動産法務、企業法務、事業再生などの法的課題解決に注力している。
その他、借金問題、過払い金請求、交通事故、離婚、相続、刑事事件など、個人の生活に根ざした法律問題にも積極的に取り組んでいる。