■なかにし礼があえて使った犯罪的な表現
しかし、この歌詞を見た菅原洋一はものすごく抵抗感があったようです。なぜかというと、当時は「過去」というワードに「前科」の意味合いを持つ空気があったから。
「あいつには過去がある」というと、「あいつには前科がある」と。そのことに敏感に反応した菅原洋一が「“過去”という言葉は犯罪用語だから変えてほしい」と申し出た。
当時、なかにし礼はまだ駆け出しの作詞家で、菅原洋一はベテランの歌手だった。普通なら「おっしゃる通りでございます。すぐに書き直します」と頭を下げるところ、なかにし礼は毅然と反論した。
「“過去”なんて言葉は恋愛感情の歌に使うフレーズじゃない」
と主張する菅原洋一に対して一歩も引かず、若き日のなかにし礼は、「絶対に変えない」と受けて立って大喧嘩になった。
「この歌詞は“過去”じゃないとダメなんだ」
なかにし礼はあえて意図的に「過去」という犯罪的な響きにも捉えられかねない言葉を使った。
「あなたの昔の恋なんか知りたくないの」
これじゃ、ダメなんだ。「過去」というキーワードがあるからこそ、人は初めてこの歌を聞く気になる。「令和の米騒動」でメディアがニュースのタイトルにつけた悲観的な言葉と同じように、あえて「過去」という言葉を歌詞に使って、聞く人の興味を引いたんですね。
これが、なかにし礼が狙ったナラティブな付加価値。「過去」という意味深な言葉があるからこそ、「どんな事情があるのか」その物語を聞きたくなるという人間心理をうまく突いて大ヒット曲となった。
つくづく、ネガティブ要素、悲観主義というのは人を惹きつける魅力があるんですね。
ただし皆さん、武田からのアドバイスです。自分に対しては、どうぞ楽観主義でいてください。
「俺なんかダメなんだ」
「俺には価値がない」
などと悲観せずに楽観的に自分を見るようにしてください。
楽観主義に必要なのは、実は“意志”なんだ。
楽観であるためには、かの有名な野球選手の名言ではありませんが、「打席に立ち続ける」という意欲を持ち続けてください。
かくいう私も、悲観主義にならないように自分を一生懸命励ましております。
もうね、ゴルフのスイングがひどくてひどくて……。
いいショットがさっぱり打てないのよ。でもやっぱりナイスショットを打ちたければ、打席に立ち続けるしかないんですよ。
これは自分自身への叱咤激励でもありますが、老年になったからこそ、挑戦し続けるというガッツを持つことが大事なんだ。その意欲が老いと向き合う原動力になる。
私も含めて、皆さんまだまだ“現役”なんだ。
「もう年だから」なんて悲観せずに、最後まで打席に立ち続けましょうぜ!
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武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。