■松岡朱里アナウンサーなら「答えてくれるかなという期待があった」
では、松岡アナへの問いかけの意図は。
「会社を辞めないまでも、最低限の業務をこなす若者の“静かな退職”という現象で、本質的に考えなくてはならないのは、上司や会社側の仕事の任せ方に問題はないのか、あるいは会社に他の問題が潜んでいないのかということなんです。ここで、若者はコスパ思考で楽をしたいとか、言われたことしかやらない“指示待ち”だとくくってしまうと、問題の本質が見えません。
そして、なぜ若者が“静かな退職”をするかというと、その根底には“諦め”や“疑問”を抱く心理があるからです。結局、“その会社が全体としてまともなビジネスをやっているのかどうか”が、働くうえで大事になってきます。放送では言いませんでしたが、コンプラ意識も強まっている。
そうした文脈のもと、僕としては番組出演者の中でまさに若手会社員である松岡アナに、“このビジネスは世の中を幸せにしているのか?”という意図で、昨今過熱していて、視聴者からの批判も多かった京都の小学生殺人事件報道に関する見解を聞いた、ということです。
自社は、マスコミ業界は、適切な取り組みをしているのか。それが勤務先や仕事に対する疑問につながっていないか。この業界、企業における“静かな退職”の原因になっていないか。万が一違和感をおぼえていることがあったとしたら、それこそが“静かな退職”につながりかねないわけですから」
パワハラだという指摘もあったが、常見氏は、「松岡アナだったら、答えてくれるかなという期待があった」と述懐する。
「松岡アナはそれまで自分なりにいろいろ調べたり、見解を述べたりしてくれていたので、イチ出演者として意見を聞きたかった。それを、“組織として言いづらいことを聞くな”とばかりに、“リスキーだ”と断ずるのは、それこそ松岡アナを他の出演者が低く見ている証拠ではと。
また、外野が私の行為を“パワハラ”だと断じること自体が、“ハラスメント・ハラスメント”(※正当な業務上の指導や注意を、部下や第三者などが過剰に「ハラスメントだ」と主張し、嫌がらせをする行為)です。問題の本質をずらし、言い方を批判するのは、わかりやすいトーン・ポリシング(※議論において発言の内容“論点”ではなく、口調や態度を非難することで、その主張の妥当性を損なおうとする行為)です。むしろ、ここで可視化されたのが、玉川さんはじめ番組関係者が松岡アナを“女の子”扱いしているハラスメント体質ではないでしょうか。
一方で、今回の放送を受けてネット上では玉川さんや私への批判的な書き込みもあります。視聴者の方のこうした行動だってハラスメントに問われる可能性があるのは理解してもらいたいです」
放送終了後も大きな議論を呼んだこの騒動。常見氏は、「僕の中に、テレビ的な予定調和に対する怒りがあったんだと思う」と振り返る。
「僕としては、もっと議論を深めたかったですね。最後に玉川さんは、この番組のためにスタッフは徹夜する日もある、頑張っているんだよという話をしていたけど、この日のテーマは“若者の働き方に対する価値観にどう向き合うか”。自分たちも苦しかったとか、辞めるやつは辞めるといった突き放すスタイルは、僕は違うと今でも思っていますね。
マスコミ関連では、2013年にNHKで佐戸未和さんの過労死問題、15年には電通で高橋まつりさんの過労死事件がありました。テレビ朝日の番組関係者はこうした過去の問題を真摯に受け止めているのでしょうか」
しばしば、玉川氏の過激な発言で物議を醸す『モーニングショー』。“玉川氏が大人しく見えた”という声も多く上がるほど、今回は常見氏の言動が注目されたが、メディア企業を取り巻く環境そのものに、一石を投じたと言えるのかもしれない。
1974年生まれ.北海道札幌市出身.一橋大学商学部卒.同大学大学院社会学研究科修士課程修了.リクルート,バンダイ,ベンチャー企業,フリーランス活動を経て、現在、千葉商科大学基盤教育機構教授,評論家
主著─『日本の就活』(岩波新書)『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版)『50代上等!──理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』(平凡社新書)など