■CFPの回答

――NISA制度は長期投資と積み立て投資が基本と聞きます。投資をする上で長期投資と積み立て投資はどのような効果を発揮するのでしょうか。

「2024年から始まった新NISAは、運用益や配当金などが非課税になる制度です。年間投資枠は、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円の合計360万円まで拡大され、非課税で保有できる期間も無期限化されました。こうした制度の見直しによって、新NISAはこれまで以上に長期の資産形成に活用しやすい仕組みになっています。

 その中で重要になるのが、長期投資と積立投資の考え方です。まず長期投資には、大きく2つの効果があります。1つは、短期的な値動きの影響を時間の力でやわらげやすくなることです。相場は年ごとに上下を繰り返しますが、保有期間を長く取ることで、一時的な急落の影響を相対的に小さくしやすくなります。もう1つは、複利効果を活かしやすいことです。運用で得た収益を再投資することで、利益がさらに利益を生む流れが生まれ、時間をかけるほど資産形成の効果が高まりやすくなります。

 一方、積立投資の効果は、購入するタイミングを分散できる点にあります。一定額を定期的に買い付けていくと、価格が高いときには少なく、価格が低いときには多く購入することになるため、平均購入単価が平準化されやすくなります。これは“ドル・コスト平均法”と呼ばれる考え方で、まとまった資金を一度に投じた場合に起こりやすい“買った直後に相場が下がるリスク”をやわらげる効果が期待できます。特に、投資に慣れていない人や、大きな値動きに不安を感じやすい人にとっては、積立投資のほうが無理なく続けやすい方法といえるでしょう。

 さらに、長期投資と積立投資は、それぞれを別々に考えるよりも、組み合わせることでより効果を発揮しやすくなります。長期で続けることで相場の上下を時間で吸収しやすくなり、積み立てを続けることで購入時期の偏りも抑えやすくなるからです。言い換えれば、長期投資は“時間の分散”、積立投資は“購入タイミングの分散”という役割を持っています。この2つを組み合わせることで、日々の価格変動に過度に振り回されにくく、落ち着いて資産形成を続けやすくなるのです」

――中川さんは新NISA制度を活用し年初一括投資でS&P500を240万円分購入しています。投資の基本は分散投資だとも聞きます。今回の中川さんがとった行動(一括投資)は、投資として間違いだったのでしょうか。

「年初一括投資の最大の弱点は、購入タイミングが悪いと、直後の下落をまともに受けることです。長期で見れば一括投資が有利になる年もありますが、それは“途中の含み損にも耐えられる人”に向いた方法です。値下がりに精神的に耐えられず途中で売ってしまうなら、一括投資の期待リターンを活かせません。

 今回の中川さんは、成長投資枠240万円を一度に投じています。仮に生活防衛資金や今後数年以内に使う予定のお金まで投資に回していたなら、下落局面で不安が強まるのは自然です。高齢期の資産運用では、期待リターンだけでなく、下がっても持ち続けられる金額かどうかを先に確認すべきです。

 中川さんの失敗は、新NISAが危険だったからではありません。短期の値動きを想定しないまま、一括で、値動きの大きい資産に投資し、下落時に感情で売ってしまったことにあります。新NISAは非常に使い勝手のよい制度ですが、制度のメリットを活かせるのは、長期・積立・分散を理解し、無理のない範囲で続けられる人です」

――新NISA制度を活用して投資をする際の注意点はありますか。

「新NISAを活用して投資をする際に、まずお伝えしたいのは、非課税だから安心と考えないことです。新NISAは、運用益や配当金などが非課税になる非常に有利な制度ですが、あくまで税制上のメリットがあるだけで、投資そのものの値下がりリスクがなくなるわけではありません。制度を使えば必ず増えるわけではなく、選ぶ商品や買い方によっては損失が出ることもあります。そのため、“お得そうだから始める”のではなく、自分が何のために運用するのか、どれくらいの値動きなら受け入れられるのかを考えたうえで使うことが大切です。

 また、投資に回すお金の性格にも注意が必要です。生活費や医療費、住宅修繕費、介護費用など、近いうちに使う予定のあるお金まで運用に回してしまうと、相場が下がったときに売却を迫られやすくなります。新NISAは長期の資産形成に向いた制度だからこそ、途中で取り崩さなくても済む余裕資金で行うのが基本です。年間の上限まで無理に使い切る必要もありません。大切なのは、自分の家計や資産状況に合った無理のない金額で続けることです。

 さらに、商品選びも“人気”や“話題性”で決めるべきではありません。何に投資する商品なのか、値動きの大きさや手数料はどうかを確認することが欠かせません。なお、NISA口座で損失が出ても、課税口座との損益通算や損失の繰越控除はできません。非課税メリットだけを見るのではなく、自分に合った商品と方法を選び、無理なく長く続けることが、新NISAを上手に活用するポイントです」

※税理士法人アクシア代表社員で、公認会計士・税理士、CFP資格を持つ宮岡秀峰氏
 

宮岡秀峰(みやおか・しゅうほう)
公認会計士、税理士、行政書士、CFP資格(日本やアメリカなど世界各国・地域で認定されている国際的なファイナンシャル・プランナーの最上位資格)。税理士法人アクシア代表社員、アクシア公認会計士事務所代表。公認会計士として会計・財務の視点から中小企業支援に取り組むほか、相続・事業承継分野にも幅広く携わる。講演や税務相談の実績も豊富で、会計・税務分野の書籍共著、雑誌寄稿も行なっている。

税理士法人アクシア 公式HP:https://axia.or.jp/