■草原の食文化が生んだ羊肉料理の奥深さ
都内でも屈指の中華コミュニティーが育ちあがっている池袋は、日本進出を目指す中華圏の料理店にとって、理にかなった出店先といえよう。現に、18年には中国国内で6000店舗以上を展開するマーラータンチェーン『楊國福』が池袋に日本1号店を出店。さらに21年には、中国本土で約600店舗を展開する火鍋チェーン『譚鴨血老火鍋』も池袋東口・西口に相次いで店舗を構えた。22年には、中国で900店舗を展開する四川魚料理チェーン『諸葛カオユ』の日本1号店も池袋西口にオープンしている。
新宿や六本木といった都内の繁華街に出店し日本人客を中心に新規顧客の獲得を目指すのではなく、まずは中国系住民に認知されている街で勝負するほうが、中国本土から日本への進出を目指す飲食店にとっては商売としても現実的なのだ。
“ガチ中華”という単語がグルメ雑誌の表紙を飾ることも珍しくなく、市民権を得たこの時代。“ガチモンゴル”ヒットのカギを握るのは、メイン料理である羊肉の食べさせ方にあるのだという。チンギス・ハーンで知られるようにモンゴル人といえば移動式テントと共に馬を巧みに乗りこなし、広い国土を移動する遊牧民だ。料理にもその知恵が詰まっているという。
「遊牧民の料理なので、草原で育った羊を、できるだけシンプルに食べる文化があります。調理法も塩でゆでる、蒸す、といった、素材のうまさを生かすものが中心。香辛料で強く押すというより、羊肉の脂や香り、塩気を素直に味わう料理です」(前出の中村氏)
その証拠に日本では肉に香辛料を振りかけて炭火を使って焼く“ラムチョップ”のような調理法が一般的な羊のスペアリブもローストより、塩ゆでにした“チャンサン・マハ”が一般的だという。
では、素材の味が素朴なモンゴル料理は、どこまで日本人の胃袋をつかむことができるのか。
「最近は、羊フェスタのようなイベントもあり、若い人を中心に羊のいろいろな食べ方が広がっていますし、ガチ中華を通じて羊に親しむ人も増えている。モンゴル料理には、羊肉の食べ方や草原文化など、まだ日本人が知らない魅力も多い。そこをうまく伝えられれば、今後もっと注目される可能性はあると思います」(前同)
次なる本場グルメブームの主役は、“ガチモンゴル”かもしれない。
中村正人
国境と辺域を愛するボーダーツーリスト。『地球の歩き方 中国東北編』『地球の歩き方 極東ロシア編』『Platウラジオストク・ハバロフスク』の編集を担当。2021年4月、都内に急増する新感覚中華の実情を観察し、魅力を紹介する東京ディープチャイナ研究会を設立した。著書に『ウラジオストクを旅する43の理由』(2019年、朝日新聞出版)、『間違いだらけの日本のインバウンド戦略』(2020年、扶桑社新書)、『攻略!東京ディープチャイナ~海外旅行に行かなくても食べられる本場の中華全154品』(2021年、産学社)などがある。今年3月に『ガチ中華移民 日本に増殖する『本場中華料理』の謎』(太田出版)を上梓。