■映像のほとんどはロケ撮影…発揮された新井順子プロデューサーの“バランス感覚”
さらに、なにげなく登場人物たちの表情から心情が読み取れる場面。特に稔にはこの照明の効果が多く使われているような気がしてならず、普段は無表情な稔がちょっと顔をしかめる、眉を動かす、口元がゆがむ、などの場面(もっちゃんで晴子に会わないのかと尋ねられた時の微妙な表情など)で、視聴者に「あれ? この表情は?」と思わせたり、逆にその照明の効果だけ見せてさらりと流し、後々見返したときに、「あ! ここでこんな表情してる!」と伏線を見つけ出す効果も見込めるだろう。
また、ロケが多いドラマであるため、その日の天候によってシーンの光が変化する。ドラマとしてのカラーを一定に保つため、晴れでも曇でも、作品カラーをそこなわない色を魅せることにも成功している。つまり、リアリティと、考察サスペンスという要素、両方に照明はその力を発揮しており、ゆえに業界やドラマ評論家からの本作の評判の良さにも繋がっているのではないだろうか。
それぐらい「照明」というのは映像にとって重要なのだ。宗氏は、このドラマにとって重要な照明の技術を持ちながら、カメラワークやレンズ選択、色設計を含めて最終的な映像表現を統括する撮影監督である。その技術が『田鎖ブラザーズ』の面白さの何割かを占めているのは、間違いない。この「照明」に、しっかりとした技師や、予算をかけて、美しい映像で物語を魅せる──これは、さすが「ドラマのTBS」の面目躍如と言えよう。
だが、昨今のテレビドラマというものは、テレビ黄金期と比べると、どうしても予算減少は免れない。予算が少ない場合、制作陣はどうするかというと、深夜ドラマによく使われがちな手法だが、豪華なセットではなく、ロケ撮影で予算を減らすことが多い。それでもヒット作を作るのは可能で、ロケ撮影の多様で低予算を補った作品の代表格は『トリック』だろう。
実は『田鎖ブラザーズ』も、映像のほとんどはロケ撮影である。だがその分、脚本はもちろん、照明や映像、そして小道具などの美術や色彩に、予算を割いているように感じられる。さらに本作では、DIT(デジタル・イメージ・テクニシャン)の山口武志氏の力も大きい。DITは、撮影された映像データをその場で確認し、色味や明るさをデジタル上で調査・管理する役割を担う。つまり撮影現場で、仕上がりに近い映像が作れるのだ。
宗氏のインタビューによれば、「照明でコントロールして、DITで最終的な質感を詰めるこのやり方は、日本ではまだ多くない」らしく、この日本最先端の技術が本作の映像美を実現させている。また本作は撮影スケジュールもかなりタイトに設計されているため、予算を削減するところは削減、使うところは使う、という新井Pのバランス感覚が遺憾無く発揮された作品といえるだろう。
最先端の技術を使って描き出されるこの刑事サスペンスドラマ。その物語、謎解きはもちろん、映像美や、照明で開示されるヒント、ミスリード、伏線などにも注目して鑑賞してもらいたい。
衣輪晋一(きぬわ・しんいち)
メディア研究家。雑誌『TVガイド』を経て制作現場を直接、長年見た経験とインタビュー経験から、多くのエンタメコンテンツを執筆。現在『マイナビニュース』『オリコンニュース』をはじめ、昨今では『東洋経済オンライン』でビジネス系のメディア研究も。写真集『堂本剛の正直I LOVE YOU』企画発案。元『メンズナックル』コピーライターなどサブカルにも通じる。制作会社でドラマアドバイザーを務めた経験もある。