武田鉄矢が、心を動かされた一冊を取り上げ、“武田流解釈”をふんだんに交えながら書籍から得た知見や感動を語り下ろす。まるで魚を三枚におろすように、本質を丁寧にさばいていく。
「年齢を重ねた自分に、いかにして付加価値をつけるのか」について語っておりますが、今回が、このテーマの最終回。
今回のお供、『このオムライスに、付加価値をつけてください』には、アメリカのレイ・オルデンバーグという社会学者の提唱として、人間には常に3つの場所が必要なんだと書かれています。
ファーストプレイス(第一の場所)は生活拠点である自宅。セカンドプレイス(第二の場所)は仕事や学業の拠点(オフィス、いわゆる職場など)。そしてサードプレイス(第三の場所)は日々の煩わしさやストレスなどから解放される場所。具体的にいえば、喫茶店とか公園、ジムや一人飲みできる店などがサードプレイス。
このサードプレイスが、日々の暮らしの中で付加価値を作ってくれる場所なんですね。
私と同世代の皆さんも覚えがあるかもしれませんが、高齢になるにつれてファーストプレイス重視の生活になりがちです。私自身を振り返ってみても、最近、ちょっとサードプレイス不足な気がします。しかし、実はこのサードプレイスがとっても大事な場所。ファーストとセカンドの行き来だけじゃ、日常生活に付加価値が生まれない。
最近、私はサードプレイス作りを一生懸命やっております。私が思うサードプレイスの絶対条件は“一人になれる落ち着く場所”。
といっても、大したことじゃない。なるべく人けのない公園を一人で歩いてみるなんていう、小さいことをコツコツやってるだけ。
ところが不思議なことに、一人になると、なんだか世間の価値みたいなものに敏感になるんですよ。一人になって初めて物事の価値が分かったり、気づけたりする。
この間、ふと感じたことがありました。公園で一人、ぶらぶら歩いた帰り道。その途中で、ある青年とすれ違った。その若者は、でっかいバイクを押して歩いていたんですね。
なんてことない光景ではありますが、それを見た私は嬉しかった。
このあたりはお年寄りが多い住宅街。その青年はバイクの音で近所に住んでるお年寄りたちを驚かせちゃいけないと、大通りまでバイクを押して行こうとしていたんですね。バイクに乗ればすぐのところを、近隣の迷惑にならないようにわざわざ押していた。私は、その姿を見て「すてきな青年だなぁ」と感心しました。
その青年の心遣いに気づいたのも、おそらく公園を一人で歩いた後だったからこそ。サードプレイスで日常の煩わしさから解放されていなければ、他人の行動に気づく心の余裕がなかったかもしれません。
家族や友人と過ごす時間も、それはそれで大事ですが、一人の時間を持つということは、そんなすてきな出会いや気づきをもたらしてくれるんですね。
ここで、武田からの提案です。
皆さんもときおり一人で公園を散歩してみたり、一人きりでしみじみ飲んでみたり、そういうサードプレイスの時間を持ってみてください。
慣れないうちは、ちょっと寂しく感じるかもしれませんが、今まで気づかないでいた世間に、ある付加価値や自分自身の付加価値を発見できるかもしれませんよ。