■丸い土俵で、無差別級 相撲はデータ化が困難
貴乃花 高い所から振り下ろすように投げたほうが、効果的だと?
養老 そのほうが、成績がよいんでしょうね。イチローが、現役を引退する頃に、「最近の野球は面白くない」と言ったんですが、おそらく、その点です。計算しちゃっているから。
貴乃花 私も、同意です。
養老 野球は、9対9のチームスポーツですから、コンピュータが計算しやすいんですね。相撲は1対1で、人間が出やすいから、そうはいかない。
――相撲のデータ化は難しい?
貴乃花 土俵は直径4メートル55センチしかないし、その中で、同じ動きをしたら、大きくて柔らかくて重たい力士のほうが、絶対的に強い。それだけは言えます。
養老 そうですね。
貴乃花 だけど、四角いリングじゃなくて、相撲の土俵は丸く、隅に追い詰めることができないから、体格差があっても勝負ができる。
それに、ボクシングと違って、相撲は無差別級なので、そこらへんが予測を難しくするかなと思います。だからこそ、面白いと。
あと、以前、元プロ野球選手の古田敦也さんの奥様にお会いしたとき、聞かれたんです。「野球はデータ化が進んでいるけど、相撲は、どうなんですか?」と。
私は、「相撲は個人競技ですから、データをひけらかすと秘密を暴露することになる。だから、データは発表できないんですよ」と言ったら、「なるほど」と納得されてましたね。
――将棋は、どうですか?
養老 AI分析が進んでいると思います。
貴乃花 藤井聡太君も、すごいじゃないですか。うちの親父(元大関・貴乃花=花田満)は将棋が好きで、時間があると、いつも家で一人、将棋を指していたんです。私が子供の頃に、親父が、「ちょっと将棋やるか」って言ってくれて、親父は飛車・角抜きでやったんですけど、3分ぐらいで負けちゃいました。そしたら、親父が、「将棋というのは王将を取らなきゃ、勝ちになんないんだよ」って。
養老 ハハハ。
貴乃花 その言葉が私の中で生きているんですよ。相撲でも、人生でもそう。戦国武将のように相手の王将を取らないといけない。将棋って深いんだなと思いました。
☆ ☆ ☆
話題の尽きない“知の格闘”。次回に続く!
貴乃花光司(たかのはな・こうじ)
1972年8月12日、東京都生まれ。88年、藤島部屋に入門。92年の初場所で、史上最年少の19歳5か月で幕内初優勝。兄・若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年11月に第65代横綱に昇進。幕内優勝22回。生涯戦歴は794勝で、「平成の大横綱」と呼ばれた。2018年に日本相撲協会を退職し、現在はテレビ、講演会等、幅広く活躍中。
養老孟司(ようろう・たけし)
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学名誉教授。専攻は解剖学。2003年出版の『バカの壁』は460万部を超えるベストセラーに。