■ゴッホやモネが浮世絵を見て驚き「意味がない!」
実はゴッホやモネといった当時の西洋の画家さんは“意味があること”を描かなきゃいけなかったんです。ギリシャ神話の神々の話だとか、イエスとマリアの話だとか。そのうえ定番の描き方が決まっていて「マリアはこう描かないといけない」とか「天使はこう描け」とか制約がいろいろあった。だから当時の西洋の絵には意味がぎっしり詰まっていた。
それ以外の絵なんて描いても意味がないし、価値がない。それが当時の西洋画の価値観だった。
ところが浮世絵を見たら、なんてことない普通の女や遊女を描いている。日本人は、その辺に咲いてる花や、なんてことない鳥を描いていた。葛飾北斎が描いた“牡丹に蝶”には何の意味もない。それをゴッホが見て感動する。
「なんでも描いていいんだ」
これが彼らが浮世絵から受けた衝撃。それでゴッホは北斎の真似をして花を描いた。それが有名な『ひまわり』。
私には娘の、この解釈がものすごく面白くて。
確かに花魁の絵にしても風景画にしても、浮世絵にはなんの縛りもない。私たちからすれば当たり前のことでも、ゴッホにしてみれば「モーゼ以外の爺さんを描いていいんだ!」っていうのは、ものすごい喜びだったんでしょうね。だってゴッホが描いた『タンギー爺さん』なんて、その辺にいる普通の爺さんだもの。
こうして浮世絵に衝撃を受けた印象派と呼ばれる画家たちは、意味のないものばっかりを描き始めた。
そもそも「印象派」っていう言葉自体が、新聞記者がバカにして言った言葉。
「こんなものは印象にすぎない」っていうところからつけられたのが「印象派」というネーミングと言われています。印象派の画家たちは自分ちの庭は描くわ、近所のネエちゃんは描くわ。ルノアールが、その辺の女の子をいくらキレイに描いたところで、当時の西洋画界ではまったく意味がないわけです。
ところが当初はバカにされていた印象派が、巨大な美術運動になっていくという逆転現象が起きる。その取っかかりとなったのが浮世絵という“ジャポニズム”。そうやって考えると“意味がない”というのは、西洋においては、ものすごく“意味のあること”だったわけですね。
今、インバウンドで日本にやって来てる人たちも印象派の画家たちと同じなのではないか。つまり彼らもまたゴッホやルノアールが影響を受けたような“ジャポニズム”を探しに日本に来てるのではないだろうか。私には、そんなふうに感じられます。
ところで皆さん、歌麿の“春画”って見たことありますか? いやらしいよね。抜群の構図だよね。線だけで男女の関係がありありと見えてくるような絵ですよね。今でも「いやらしい」と思うんだもの、当時の西洋の人たちにとっては、さぞかし強烈な衝撃だったんでしょうねえ。
NHKスペシャル「新ジャポニズム」が待望の書籍化。なぜ今、世界で日本発のカルチャーが熱狂的に受け入れられているのかを描き出す。(著)NHKスペシャル「新ジャポニズム」制作班、NHK出版刊。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。