■戦争も計算 だが、天災はそうはいかない
貴乃花 戦争というのも計算じゃないですか。さっきのAIの世界じゃないですけど。
養老 そうそう。明治時代、日本は「富国強兵」というスローガンを出したでしょ。富国とは経済、強兵は戦争ですよ。つまり、両方ともシミュレーションが可能なもので、要するに、“ああすれば、こうなる”という世界なんです。それを100年以上ずっと、やってきたんですよ。いい加減、嫌気がさしてきている。
貴乃花 だと思います。
養老 ぼくは南海トラフ地震に興味があるんですよ。起きたら、何が、どうなるか予測がつかないでしょ。
貴乃花 先生が以前、「日本は何十年に1回、巨大地震に見舞われるけど、幸か不幸か、それがあるから日本はなんとか保っていられる」と、おっしゃっていたのを、私はすごく覚えているんです。
僭越ながら、私も、その信奉者なんです。日本は、無宗教民族でキリスト教の文化圏とは全然違う。アニミズムといいますか、自然崇拝で生きてきたわけですけど、だからこそ、地震で崩れ去るというサイクルが、とても重要な気がしています。計算して予測ばかりすると、本当に戦争が起こっちゃうような気がするんですよ。
――阪神・淡路大震災、東日本大地震など国を揺るがす災害が幾度も起きています。
養老 残念ながら、計算ずくで、なんとかなるという考え方は変わっていませんね。それが日常になっている。
医療の世界が、その典型です。テレビCMで、「このサプリを飲めば健康になる」というのが多いでしょう。それがいけないというのではなくて、その裏にあるのは、人間とは何かをすれば、それだけの結果が得られると思い込んでいる。何かを考えたら、その分の結果が得られるという暗黙の信仰が根付いています。
でも、天災はそうはいきませんよ。南海トラフ地震をどうしたら止められるのか、誰も分からないでしょ。