■日本人の価値観が変わった
貴乃花 子供に、いろいろと詰め込みすぎている?
養老 だと思います。日本人の価値観が根本的に変わっちゃったんですよ。子供の状態が理想だったのに、大人のほうが理想になっちゃった。子供は大人に比べて欠けたものがある存在という扱いになってしまったのが、原因だと思います。
貴乃花 なるほど。
養老 私はよく、柳田國男の『遠野物語』にある民話を例に出すんです。とある集落に木彫りのご本尊があって、ある日、村の子供が、それに縄をくくって引きずり回して遊んでいた。それを見たおばあさんが叱りつけて、やめさせるんだけど、その晩、おばあさんの枕元にご本尊が立って、こう言うんですよ。「私は、せっかく子供と楽しく遊んでいたのに、なぜ止めたんだ」と。
貴乃花 いいお話ですね。
養老 日本ってね、そういう社会だったんですよ。けど、今の人は、そうは思っていませんよね。
貴乃花 はい。大人の意見が通されますよね。子供を主体に考えたら、かつての日本が戻ってくるかもしれませんね。
養老 「子供らしい」というのが、良くない言葉になってしまった。男らしい、女らしいと一緒くたに潰されちゃった。
貴乃花 でも、昔は男らしいと言われたら嬉しかったもんですけどね。先生のおっしゃる通りで、「子供らしい」というのは大切な日本語だと思います。
――相撲界は、どうですか? 昔と今で、違いを感じることは?
貴乃花 相撲も同じですよ。本当に強い力士を育てようと思うのなら、子供のときに土の上で、裸足で遊ぶことを覚えさせるのが一番強くなる。それは土の中のバクテリアに触れることで……という科学的根拠もあるんだけど、それより、自分がそうやって強くなってきたのが大きいので。