■「地上の楽園」北朝鮮に魅せられて

 当時、読んだマンガといえば、『鉄腕アトム』『鉄人28号』『スポーツマン金太郎』『ロボット三等兵』なんていうのもあった。それから、バイクで活躍する早変わりの『まぼろし探偵』。もうね、今でもワクワクするのよ。

 私がマンガ雑誌に夢中だったとき、学校では、どんな出来事があったかというと、当時、小学校には2か月に1回ぐらい、巡回映画という映画が回って来て、名作映画を小学生たちに見せてくれました。例えば『風の又三郎』とか。小学生の武田少年も、かじりついて観た記憶があります。そうした名作に混じって、ときどきワケの分かんない映画を見せられました。

 強烈に覚えているのは、確か小学5年生のとき、『チョンリマ(千里馬)』っていう映画が来たのよ。これは北朝鮮の記録映画。北朝鮮がいかに優れた国で、いかに人民が協力し合って金日成将軍を盛り立てて、アジアナンバーワンの国に輝いているかを描いた作品。

 日本の某大手新聞社がつけたキャッチフレーズが「地上の楽園」。

 学校の先生たちも「北朝鮮は地上の楽園です。身分がないんですよ。みんな平等なんです」なんて言って、今でいう“北朝鮮推し”。当時は教職員組合に左翼リベラルの思想の方が多かったんで、北朝鮮を支持したんですね。

 そんな映画を見せられたもんだから、小学生の武田少年は「北朝鮮いいなあ」と思ってさ。母に報告したんですよ。

「かあちゃん、北朝鮮って、いいらしいよ。身分がなくて、みんな平等だって」

 縫物しながら私の言葉を聞いた母は言いましたよ。

「そげな国があるわけなかろうが!」

 あのとき、つくづく考えました。

「地上の楽園といわれる貧しさのない平等な国・北朝鮮と、戦争に負けて貧しい国の日本と、どっちがいいかな」って。子供心に懸命に考えた。そのとき私は、やっぱり日本を選んだ。なぜか? 来週号が出るからですよ、マンガ雑誌の。アトムの続きも気になるし、鉄人28号のその後も気になる。私を日本に引き留めたのは、マンガの主人公たちなんですよ。

「鉄腕アトムは、どうなるんだろう? 頑張れアトム!」の気持ちのほうが私には響いた。