■江戸時代の徳川家は低俗さえ文化に昇華

 貴族がいたり、特権階級がいたり、大きな権力者がいて、その回りに官僚がいたり、そういう小衆社会では自由にキャラを生み出す力がなくなる。つまり、大衆社会であることが、マンガやアニメを隆盛させるエネルギーに直結している。

 歴史を振り返ってみれば、そもそも日本では江戸期から庶民文化が盛んでした。

 浮世絵、絵物語、北斎に歌麿。“低俗”を描く文化を庶民は持っていた。男女の交わりを描いた、イヤラしい絵の“春画”も大衆に支持された庶民文化。

 知ってますか? 春画って正月の縁起物なんですって。子孫繁栄の縁起物として、あげたそうですよ。少子化対策が急務の今の日本もそうですが、子孫繁栄のためにはイヤラしい絵を見て元気になる能力がないといけない。それで、お正月の縁起物で春画をあげたそうです。

 さらに驚くべきことには、徳川家まで庶民にならって、お正月の縁起物で春画をあげたそうです。そりゃあ、絵描きの腕も上がりますぜ。半端なエロ描きじゃあ通用しませんよ。歌麿級の絵描きを持ってこないと。なにせ、将軍様直々の縁起物なんだから。そういう低俗ささえも“文化”と呼ぶ庶民のパワー。

 この江戸の庶民たちのエネルギーが日本の生み出したジャポニズムの原動力であり、そこから脈々と続く庶民文化の流れが、いわゆる“新ジャポニズム”を作ったエネルギーになったのではないだろうか。

 アニメは圧倒的なパワーで世界中を席捲していき、キャラ作りにおいては、日本がアメリカを凌駕した。戦争に負けた日本は、マンガという日本発の新たなカルチャーを生み出した。

 敗戦国日本が戦勝国アメリカをマンガにおいて抜き去ったのは、なぜか。アメリカンコミックが美しいもの・強いもの・正しいもの・幸せなものたちを描くのに対して、日本のアニメ、マンガは美しくないもの・弱いもの・鬼・デビル・敗れ去るものを描いたから。

 歴史は勝者のための記録だというが、マンガはどうであろう。アトムは太陽に溶けていった。矢吹丈は眠るように真っ白な灰になった。星飛雄馬は最後の一球を投げて、巨人を去っていった。
鬼滅の刃』も倒れていくヒーローたちの物語である。

 ジャポニズムには敗北の作法がある。アメリカンコミックスの光に対して、日本マンガの影。この光陰の差が世界中を席捲する日本アニメの人気として、表れているのではないだろうか。

 世界を熱狂させるマンガ、アニメという“新ジャポニズム”は、大衆が生み出した日本独自の文化なのである──。

世界はなぜ日本カルチャーに熱狂するのか
世界はなぜ日本カルチャーに熱狂するのか

NHKスペシャル「新ジャポニズム」が待望の書籍化。なぜ今、世界で日本発のカルチャーが熱狂的に受け入れられているのかを描き出す。(著)NHKスペシャル「新ジャポニズム」制作班、NHK出版刊。

武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。