■日米で異なるポスターの役割、 『トイ・ストーリー5』でも日本版は“エモさ推し”
まず前田氏は、日米のポスターには「役割の違い」があることを指摘する。
「海外では、『ティザーポスター』という予告用ポスターが数種類用意されることが珍しくありません。公開前から少しずつ期待感を高めるため、あえて詳細を伏せ、“謎を呼ぶ”ビジュアルにするのが特徴です。特に最近はSNS時代ですから、宣伝戦略として情報を断片的に出し、考察や話題作りを促すデザインがトレンド。タイトルすら載せないものもあるほどです。今、SNSで話題になっている『Backrooms』のポスターはティザーポスターの典型ともいえ、劇場用はまた別に作られるのではと思います。
一方、日本のポスターは、じわじわ話題というよりも一発で『集客効果』を狙う。これは予算の都合が大きいです。特に『Backrooms』のような中小規模作品は宣伝費用が限られ、少ない手数で(観客の)最大公約数を取るためには、センスが良くないのを承知だとしても、アピールできる情報を全部載せるのが“安全牌”と考えるわけです」(前田氏)
洋画の日本版ビジュアルに対する不満は、今作に限った話ではない。たとえば7月3日に公開された『トイ・ストーリー5』(2026)では、海外版が物語のメインを担うジェシーを中央に配置しているのに対し、一部日本版ではシリーズの象徴であるウッディとバズを大きく押し出し、ファンからは《ウッディとバズが真ん中なの違和感しかない》《もうちょっと日本の客を信用してもいい》などと疑問の声が上がった。ただし、これもまた「マーケットに合わせた戦略」だと前田氏は分析する。
「ディズニーは各国別に戦略を微調整するのが通例です。『ベイマックス』(2014)では、中国やロシアがバトル・アクション物を彷彿とさせるビジュアルであるのに対し、日本はベイマックスと少年の絆を押し出す感動路線。これは日本の宣伝部が『“感動推し”にしたほうが、より幅広い集客を見込める』と踏んだ結果です。
『トイ・ストーリー5』の場合は前作から7年も経っていますし、ジェシーはこれまでサブキャラクターの1人に過ぎなかったのは事実。圧倒的知名度のあるウッディとバズを目立つように配置するのが無難だと判断したのでしょう」(前田氏)
日本では、たとえ説明過多であっても、できるかぎり「ピンとこない人を減らす」ことが重要視される――と前田氏は語る。背景には「日本人の映画館に対するハードル」があるようだ。
「日本には気軽に映画館へ足を運ぶ文化がありません。『なんかやってるかな』とか、『全然知らないけどとりあえず見てみよう』というスタンスではなく、なるべく安心して、確実に満足できる作品を選びたい国民性があるように思います。となると、ポスターの情報は多いほうがいいし、説明チックな文章や、“エモさ”推し、煽り文を載せる。シリーズものなら“知った顔が出ているほうがいい”ということになってしまうんですよね。もちろん本国の確認は取っているので、日本が“勝手に”やっているわけではありません」(同)