■細川ガラシャは自分の散るときを知っていた

 もう一首いきます。

 時代をさかのぼって戦国時代。戦国の世に生きた女性が残した美しい辞世の句。

 

ちりぬべき 時しりてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ

 

 これは細川ガラシャという人の辞世として伝わる歌。

「花は散るときを知っているからこそ花として美しい。人も散っていくとき、死んでいくときを知っているから人として美しい」という短歌を残して彼女は死んでいった。

 明智光秀の三女(玉)として生まれた彼女は、織田信長の勧めにより細川忠興に嫁ぎますが、本能寺の変で父・明智光秀が信長を襲撃したことで彼女の生活は一変し、“謀叛人の娘”の烙印を押されて、夫の忠興により幽閉されてしまいます。

 その後、大坂に戻った玉はキリスト教に傾倒し、「ガラシャ」という洗礼名を受け細川ガラシャとなります。関ケ原の戦いの前、夫の細川忠興は徳川家康に従い、上杉征伐に出陣。隙をついて豊臣方の石田三成の軍勢に屋敷を取り囲まれたガラシャは人質となることを要求されますが、それを拒み死を選びます。

 このとき、ガラシャは38歳。彼女は自らの“散るべきとき”を知っていたんでしょう。この句を残して自ら命を絶ちました。

 改めて見てみますと、辞世の句というのはやはり“終活の文学”ですよね。どんな遺書よりも的確に死んだ人の志を後の世に残していく。

 当時の人たちは死の数時間前に遺品として必ず誰かに辞世の句を渡していたそうです。あるいは坂本龍馬のように着物の衿に辞世の句を縫い込んでいた。当時は死に際して一首残すことがいわゆる教養だったようで、一首残してこの世を去っていっております。

 辞世の歌ではありますが、一種の“言葉のショート動画”として強烈に後の世の人たちを鼓舞する歌もあれば、その人の生き様を見事に振り返っている歌もある。たった31文字しかない短歌ですが、実に生々しく、自分を語る動画なんですね。

 皆さん、面白いと思いませんか。31文字の短歌という文学。私もそうですが、終活の作法として一首ぐらい残しとかないといけませんよ。財産分与のことばっかり書き残しているのは大和魂に申し訳ない。

 そこで今回見つけたのが『短歌のガチャポン、もう一回』(穂村弘著・小学館)という、短歌を選んでまとめた本。次回以降、この本を題材として、短歌の味わい方を武田流解釈で皆さんにご披露したいと思います。

 言葉の組み合わせは自由自在。無限に広がる31文字の世界。“終活の文学”としての短歌を一緒に楽しみましょう。

短歌のガチャポン、もう一回
短歌のガチャポン、もう一回

現代短歌のトップランナー・穂村弘がふと思い出して嬉しくなったり、たまたま目に飛び込んできて「いいな」と思った100の短歌を厳選、解説コメントつきでお送りする一冊。前作『短歌のガシャポン』の好評を受け、明治時代から令和までの作品がずらり。著・穂村弘、小学館

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花咲けじいさん 人生後半の教科書
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武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。