原価率「約95%」の商品も! それでも利益が出るカラクリ
では、いったいどうやって――。テルマエの安さを支えているのは、単純な薄利多売ではないという。
「単に商品を安く売り切るのではなく、“低価格 × セルフ体験”を組み合わせた高効率な仕組みによって利益を生み出すビジネスモデルを構築しています」(運営会社広報=以下同)
その仕組みを象徴するのが、客自身が蛇口から酒を注ぐというセルフ方式だ。一般的な居酒屋では、客が酒を注文すれば、スタッフが注文を受け、ドリンクを作り、席まで運ぶ。その一連の作業を、テルマエでは客自身が担う。
「ドリンクの注文受付・提供にかかるスタッフの労力や提供待ち時間をゼロに近づけることで、ホール人件費の大幅な削減を可能にしています」
つまり、“酒が出る蛇口”は、客を楽しませるためだけの仕掛けではない。店にとっては人件費を抑える装置でもあり、その削減分が驚きの価格を支えているのだ。
「『テルマエ串』などの看板メニューや時間帯限定の商品には、平均原価率約95%となるような“目玉商品”を用意しています」
原価率95%。100円売っても、単純計算なら原価だけで95円ほどになる水準だ。当然、それだけを売っていては商売にならない。そこで、圧倒的な安さの商品を“呼び水”にしながら、ほかのアラカルトや名物料理も注文してもらうことで、テーブル全体の原価率と客単価を調整する。
さらに串物や唐揚げ、小籠包などは仕入れルートを共通化。厨房の調理工程もできるだけシンプルにし、提供時間やフードロスを抑えているという。面白いのは、コスト削減そのものを客に感じさせにくい点だろう。
「お客様にとって“ドリンクを待つ時間”が“自分で注ぐ楽しさ”に変化します。人件費削減のためのセルフ化を、マイナスではなく“体験価値”として還元しています」
本来なら店側が行う仕事を客に任せる。その代わり、安くする。そして、その“セルフ”自体を遊びにしてしまう。これが「安さ」と「楽しさ」を同時に成立させるテルマエのカラクリというわけだ。
もちろん、同社も物価高と無縁ではない。創業当初と比べて食材費、人件費、光熱費を取り巻く環境は「非常に厳しくなっている」という。それでも、定番メニューを一律に値上げする考えはない。
「物価高の今だからこそ、お財布を気にせず仲良く非日常空間を楽しめる場を提供する、というのが私たちの価値提案です」
むしろ客足が落ちやすい時間帯に「早割・遅割」を設け、35円からの目玉商品を投入することで稼働率を高める。さらに店舗数を増やし、大量仕入れによるスケールメリットを生かすことで、可能な限り現在の価格帯を維持していくという。すでに静岡、高崎、仙台、京都など全国各地へ出店を広げ、タイ・シラチャには海外1号店も出店。今後はアジアを中心とした海外展開も強める方針だ。
値上げが当たり前になった時代に、あえて安さを武器に店を増やす。その裏側にあったのは、利益を削って我慢する商売ではなく、「客が酒を注ぐ」という一手間まで、コスト削減とエンタメの両方に変えてしまう仕組みだった。
蛇口をひねれば酒が出る――。一見するとただの“映える居酒屋”だが、その実態は、客の体験そのものを効率化に変える、かなり合理的なビジネスだった。安さの秘密は、酒そのものよりも、その“注ぎ方”にあったようだ。