■国主導で「マイホーム」を確保
特に注目したいのが、この国主導の積立制度が「マイホーム」の確保に直結している点です。シンガポールでは政府機関である「不動産開発庁(HDB)」が国内の住宅のほとんどを供給しており、なんと国民の多くがこの公営住宅に暮らしています。シニア向けには、手厚い介護ケアや医療サービスが最初から組み込まれた格安のマンションが用意されるなど、住まいのサポートがとても充実しているのが特徴。
若い頃に自動でコツコツ貯めたお金を使って、老後にバリアフリーの安全な家を無理なく手に入れられるこの仕組みは、まさに住宅政策と生活保障をうまく組み合わせた理想的なカタチと言えるでしょう。一方、財政の危機によって年金が容赦なくカットされてしまった南欧の国々などの事例もあり、国がどういう未来のロードマップを描くかで老後の安心感がまったく変わってくるというのが現実です。
こうした海外のリアルな取り組みと比べると、今の日本のセーフティネットに対する評価は、世界的に見ても少し寂しいポジションにあると言わざるを得ません。少子化によって制度を長く維持できるかという問題や、現役時代に払う金額に対して将来もらえる金額が少なすぎるという点など、日本の年金制度には多くの課題があります。また、若年層は毎月の社会保険料を支払うだけで手一杯になり、貯蓄に回す余裕が削られていく悪循環に陥っている人も少なくありません。
ネット上でも、《働いても、働いても、引かれるお金が増えるばかり》《自分が引退した時にまともな金額をもらえるイメージが湧かないから本当に不安》《日々の暮らしを回すだけで手一杯なのに、自己責任で投資しろって言われても、そのための元手になるお金が最初からない》といった声が飛び交い、多くの人が先行きの生活に強い危機感を抱いていることがよく分かります。
「シンガポールの事例が参考になるのは、老後破産の主因である『住居費』の負担を国が低く抑えている点です。日本では家を持てないまま引退したシニアが高額な家賃に苦しんだり、高齢を理由に入居を断られたりするケースが後を絶ちません。ただ“自分で備えろ”と突き放すのではなく、年金の範囲内で暮らせる格安の公営住宅の拡充や医療と連携した受け皿づくりなど、抜本的な改革が今後のセーフティネットの鍵になりそうです」(経済ジャーナリスト)
社会保険料の負担に苦しむ若い世代が将来に少しでも希望を持てるよう、海外の成功事例もヒントにしながら、納得感のある制度へと少しずつでも刷新していく動きに期待したいところです。
トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。