■物の呼び方一つで人柄が垣間見える

 この歌の面白さは、世代の違う家族の観察が実に見事なんですよ。

 特に兄の「辛いやつ」という呼び方は、実にいい加減で面白いですよね。人柄も垣間見えるようで奥行きがあります。家族を観察することの面白さが短歌に表れている。

 物の呼び方の不思議ですよね。私、武田の地元の福岡では、博多ラーメンにペッパーを入れたいときにラーメン屋で、こう言います。

「おじさん、コショウあるね?」

 これはテーブルコショウじゃなくて「ブラックペッパー」のことを指すんですよ。

 博多の人は博多ラーメンを前にしたとき、ペッパーのことを「コショウ」と呼ぶんですね。ところが、うどん屋に入って「コショウ」と言ったら、それは「唐辛子」のことなんです。しかもうどん屋の唐辛子は七味じゃなくて「一味」のこと。面白いでしょ。

「辛子」というのもそれぞれ意味が違って、「辛子明太子」の辛子は「唐辛子」。ところが熊本の名産品の「辛子レンコン」の辛子は「和辛子」。「コショウ」でいえば大分名物の「柚子胡椒」のコショウは「唐辛子」のこと。呼び方は「コショウ」でも何を食べるかによって、コショウの正体が変わってくる。面白いでしょう。

 さて次の句ですが、これも、噛み締めると愉快な一首です。

 

2周目の輪ゴムは少し細くなり1周目の輪ゴムと重なる
(平井まどか)

 

 当たり前ですよね。2周目の輪ゴムが1周目より、さらに細くなったというだけのことを歌った短歌。当然、これ、3周目はもっと細くなりますからね。

「3周目の輪ゴムは少し細くなり、2周目の輪ゴムと重なる」

 3周目の歌をつくってもいいんですよ。

 なぜ、作者は輪ゴムの細さに目をつけたのか。

 穂村さんが〈なんて地味で細かくて凄い歌なんだろう〉と評する通り、地味で細かくて何の意味もない観察だけど、なんだか、すごい歌に思えてくる。どうして作者は、そこを切り取って歌にしようと思ったのか。それを知りたいですよね。

 退屈さのあまり、指かなんかに輪ゴムを巻いてジーッと見つめたのかな。

 人間の目というのは実に不思議なもので、なんでもないものをジーッと見つめることがあるんですね。当たり前を歌にするというところに、この人の歌の面白さがある。

 ……こんなふうにして読むと、短歌もいいもんでありましょう。

 短歌の世界の面白さが、皆さんも徐々にお分かりになってきたんじゃないでしょうか。

 読者、ご同輩もぜひ、人生の一首を詠んでみることをオススメします。これも立派な終活です。

短歌のガチャポン、もう一回
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武田鉄矢(たけだ・てつや)
1949年生まれ、福岡県出身。72年、フォークグループ『海援隊』でデビュー。翌年『母に捧げるバラード』が大ヒット。日本レコード大賞企画賞受賞。ドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)など出演作多数。